資生堂を支える「知られざる事業」…非・化粧品の新事業続出で顧客基盤拡大
資生堂といえば、化粧品あるいはパーラーというように、誰もが知る消費者向け商品・サービスを提供している企業だ。
ところが、あまり一般に知られていない「知る人ぞ知る事業」も展開している。たとえば化粧品メーカーや食品メーカーにヒアルロン酸を提供している。最近ではDDS(ドラッグデリバリーシステム)と呼ばれる「薬を有効に働かせるための媒体」として製薬メーカーにも使われ始めている。
このように化粧品で培った技術をベースに企業向け製品を販売しているのが、資生堂フロンティアサイエンス事業部だ。同事業部は1980年代の半ばに設立され、すでに30年以上にわたる実績があるが、そのきっかけとなったのがひとりの研究者からの提案であった。
化粧品で培った薄膜形成技術を化学分析へ応用
ある年齢に達した人であれば、誰でも血液検査や尿検査のお世話になっているだろう。そこで使われているのが高度な分析技術だ。分析結果に一喜一憂する我々にとって、分析結果が正しいと信じていることはいうまでもない。
ところが、その分析を高い精度で行うことは意外と難しい。自然科学の常として、分析する側と分析される側の間になんらかの相互作用が生じ、どうしても分析結果に影響を与えてしまうからだ。血液検査や尿検査では、成分を分離するのにシリカゲルが使われるが、そのシリカゲルが分析対象に作用して精度の高い分析が難しいという問題点があった。
これに対して資生堂は、ファンデーションに使われている表面処理技術を活用し、分析対象をコーティングすることによって影響を与えない分析手法を開発した。1987年に発売したポリマーコート型カラムという製品だ。「カラム」というのは筒状の消耗容器のことで、血液や尿など分析対象を通過させて成分を分離する容器を指す。
資生堂は、そのカラムに独自開発したコーティング技術をプラスすることによって、成分を分離する際に使われるシリカゲルを膜で覆い、分析対象に影響を与えない手法を開発して発売したというわけだ。
87年にこのカラムを発売したときのメンバーはわずか3人であったという。この3人で、製薬、食品、化学メーカーなどの分析部門を訪ね歩き顧客開拓を進めたのである。化学分析の分野で資生堂の知名度はなかったため当初は苦労したが、実際に高精度な分析力を目の当たりにした顧客は資生堂のファンになっていく。こうして今や国内で1000社にも及ぶ納入実績を誇るまでになった。