資生堂を支える「知られざる事業」…非・化粧品の新事業続出で顧客基盤拡大
顧客に徹底的に寄り添うことで、製品を開発し顧客を創造する
資生堂はカラムの販売で満足せず、カラム販売が軌道に乗ると今度は分析機器そのものにも参入したのである。93年のことだ。分析機器分野には島津製作所などノーベル賞級の技術力を持つ企業がひしめいている。それでも顧客が資生堂を選ぶ理由は、顧客に密着した営業力と開発との連携力だ。
国内の営業はわずか8人。この8人で全国をカバーしている。少ない人数ながら顧客に徹底的に「寄り添う」ことで、新たな製品開発を継続している。機器の定期点検はもちろんのこと、それ以外の機会にも頻繁に研究所を訪ね、顧客である研究者の研究テーマにまで踏み込んで議論する。これが資生堂のファンを増やしている理由だ。
顧客は企業ばかりではない。大学との接点も増えている。東北大学との共同研究で「リゾリン脂質」を高感度で測定できる機器を世界で初めて開発した。「リゾリン脂質」は細胞増殖に関連するとされ、がんや免疫疾患などに効果のある新薬開発に一役買いそうだ。
フロンティアサイエンス事業部の成果は、顧客のためだけではない。自社の化粧品開発や生産技術として戻ってくるのだ。いわゆる「ブーメラン効果」だ。フロンティアサイエンス事業部の売上自体は小さいかもしれないが、資生堂の屋台骨である化粧品を技術面から立派に支えているのだ。
資生堂と同じように、自社製品を製造するうえで培った技術を生かしているのが森下仁丹だ。資生堂との違いは、主要製品である仁丹の売上が急減したこともあり、シームレスにカプセルを包み込む技術のほうがむしろ主要製品となっている。
市場が成熟あるいは衰退して手の打ちようがないと悩んでいる経営者も多いことであろう。そんな時こそ、自社製品に使われている技術をもう一度見直して要素分解してみるとよい。そこにヒントが隠されている。あるいはすでに小さな成功を積み上げている社員たちがいるかもしれない。企業の組織のなかで、ただ単に主流ではないからという理由で見落とされていた人と技術群だ。新規事業とは、意外と見落としていたところに転がっているものだ。
(文=宮永博史/東京理科大学大学院MOT<技術経営>専攻教授)