次期オーナーの最右翼と見られているのが、松田一宏氏だ。球団の社外取締役に就いていた松田弘氏(元氏の弟)の長男だ。一宏氏は慶應義塾大学を卒業して球団に就職。13年3月に33歳でオーナー代行になった。
球団は、マツダと縁が切れた松田家に唯一残された砦だ。潰すわけにはいかない。黒字経営を維持することが至上命題だ。だから、年俸の高い選手を次々に放出した。
07年のシーズンオフは松田式経営を象徴するものとなった。05年の本塁打王である新井貴浩選手が阪神タイガースへ、同年の最多勝に輝いた黒田博樹投手は米大リーグ、ロサンゼルス・ドジャースへ移籍し、タイトルホルダーの2人がカープを去った。
カープファンからは「黒字達成を優先させ、投資を抑制したから長期低迷を招いた」との批判がオーナー家に浴びせられた。
女性や家族連れの観客が増え、グッズ販売が収益押し上げ
高額年俸の選手を放出するから試合に勝てない。万年Bクラスの球団に愛想をつかして、ファンは球場に足を向けなくなる。そんな悪循環を、MAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島(マツダスタジアム)の建設が一挙に解消した。新球場の観客は家族連れが増えた。なかでも女性客が急増し、カープ女子という想定外のブームが起こった。
広島市や広島県、地元経済界、市民の募金で総事業費90億円を賄い09年4月、マツダスタジアムはオープンにこぎ着けた。管理は広島市で、球団が指定管理者となり営業権を得た。
球団は米大リーグのアイデアをふんだんに取り入れた。ただ野球を観戦するのではなく、3世代でも楽しめるボールパークを目指した。
砂かぶり席や、バーベキューを楽しみながら観戦するテーブル席、横たわって観戦できる「寝ソベリア」など多彩な観客席を備えた。女子トイレの数は、旧市民球場時代の2倍以上にした。大リーグの球場のように場内を一周できるコンコースを通し、その周りにグッズ店や飲食店を配置した。
マツダススタジアムを新たな本拠地にした09年12月期の観客動員数は187.3万人、売り上げは117億1600万円と初の100億円の大台に乗せ、当期利益も4億円となった。
その後、新球場効果は薄れたが、13年にクライマックスシリーズ(CS)に初進出するなど成績が上がったことから再び人気が高まった。
15年12月期の売上高は前期比19億5800万円増の148億3256万円、当期利益は1億8700万円増の7億6133万円だった。米大リーグから黒田投手が復帰したことで空前のカープブームが巻き起こった昨年、観客動員数は211万人と初めて200万人の大台に乗せ、球団史上最高の売り上げと利益になった。