旧広島市民球場を本拠地としていた当時からすれば、考えられないような状況になっている。98年から12年まで15年連続でセ・リーグのBクラスに低迷し、03年12月期の年間観客動員数は94.6万人。最後に優勝した91年以降では最低の数字となった。売上高は65億4300万円、純利益は8300万円にとどまった。15年同期は、03年12月期と比べて観客動員数は2.2倍、売上高は2.3倍、純利益は9.2倍になった。
利益が増え、選手に投資して成績向上
旧市民球場時代の収入の大きな柱は放映権料で、年間30億円あった。それが、テレビがプロ野球を全国ネットで放映しなくなり、15年12月期の放映権料は14億円と半分以下に減った。
一方、観客が戻ってきたことで入場料収入は18億円から54億円と3倍に増えた。家族連れや女性の観客を引きつけたことで、すべて赤の3色ボールペンやTシャツが売れた。グッズの販売が球団の収益を押し上げたことで経営が上向き、選手に投資できるようになった。
06年オフにドラフト1位で獲得した前田健太投手は、契約金8000万円だった。年俸800万円の前田投手は、入団からわずか1年でエースナンバー18番を背負い、その後も順調に活躍し、15年オフにドジャースへ移籍した。
その際、20億円という巨額のトレードマネーが球団に入った。球団は、この20億円を有効活用した。黒田投手に2億円アップの年俸6億円を提示した。投打の柱のジョンソン投手とエルドレッド選手をそれぞれ1億2500億円、1億500億円を払って引き留めることができたのも、20億円の原資があったからこそだ。さらに、投手2人と野手2人の新しい外国人4人を計2億5400万円で獲得できたことも大きかった。
16年のセ・リーグ優勝の車の両輪となったのは黒田投手と、出戻りの新井選手だった。カープファンは久々に勝利の美酒に酔った。
エースが抜けた穴を危惧する声があったが、トレードマネーをうまく使い、戦力補強の実をあげた。カープのリーグ優勝の最大の功労者は、日米をまたぐビジネスで、上手にソロバンを弾いたオーナーの松田家だったといえそうだ。
地方都市に本拠地を置く球団は、共通の悩みを抱えている。カープファンが全国に広がり、東京ドームや甲子園を赤色で埋め尽くしても、球団には一銭も入ってこない。マツダスタジアムに来てもらわないことには、球団の収入に連結しないのである。
16年12月期決算は、25年ぶりのリーグ優勝で、観客動員数、売り上げ、利益のいずれも過去最高記録を更新するのは確実だ。だが、観客動員数の限界が見えてきた今日、どうやって増収増益を続けるのか。オーナー家の経営手腕が問われることになる。
(文=編集部)