今後、軽量化の“切り札”として、自動車向けの用途が本格化する。20年にかけて電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)の市場に投入され、炭素繊維複合材料の採用車種が高級車を中心に増えることが期待されている。
炭素繊維は東レ、帝人グループの東邦テナックス、三菱レイヨンの日系3社が世界需要の7割を握る。その首位を走るのが東レだ。
東レ、米ボーイング社に炭素繊維1.3兆円分を供給
合成繊維最大手、東レの業績を牽引しているのは、祖業の繊維と長い年月を経て花開いた炭素繊維の二大事業である。16年3月期の連結決算の売上高は前年同期比5%増の2兆1044億円、営業利益は25%増の1545億円だった。
このうち炭素繊維の売上高は18%増の1862億円、営業利益は38%増の361億円。炭素繊維の売り上げは全社の1割にも満たないが、営業利益は全社の23%を稼いでいる。東レの屋台骨を支える収益の柱に育ってきた。
その売り上げの主力は航空機と圧縮天然ガスタンク向けだ。特に航空機向けは米航空機大手のボーイングの「787」だけでなく、新型機「777X」向けに炭素繊維を供給する包括的な長期供給契約を結んでいる。15年から今後10年以上にわたり、ボーイング社向けに1兆3000億円分を供給することになる。
15年11月、米サウスカロライナ州で取得した工場用地に、500億円を投じて高性能炭素繊維の生産設備を新設。年産2000トンの新工場では、19年からボーイング社向けに供給を開始すると発表した。
三菱レイヨンは伊ランボルギーニ社と炭素繊維複合材の共同開発
一方、東邦テナックス、三菱レイヨンは、炭素繊維の業績を公表していない。『会社四季報 業界地図2016年版』(東洋経済新報社)によると、三菱レイヨンの炭素繊維の売上高は約600億円、東邦テナックスは約218億円とされている。
三菱レイヨンが力を入れているのは、自動車分野である。独BMW社の電気自動車iシリーズや、日産自動車のスポーツカー「GT-R」に三菱レイヨン製の炭素繊維が採用された。
三菱レイヨンは今年9月16日、イタリアの高級自動車メーカー、ランボルギーニ社と炭素繊維複合材の共同開発を始めると発表した。自動車の部材として使う炭素繊維複合材の加工時間を短縮したり、工程を自動化する技術を今後1年かけて確立。ランボルギーニ社が将来販売する新型車での採用を目指す。