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小林敬幸「ビジネスのホント」

ドゥテルテ比大統領、反米手法の落とし穴…米国の反発受け「死に体」韓国の二の舞いも

文=小林敬幸/『ビジネスの先が読めない時代に 自分の頭で判断する技術』著者

 やはり、したたかに見えるリーダーも、そうそううまくアメリカと中国を天秤にかけて手玉にとって渡り歩くのはできない。そういうリーダーの勘違いによる結果の苦さを、韓国の朴大統領は、今味わっているのではないだろうか。

安全保障と経済の優先度

 嫌米方針をとるポピュリズム的政権は、安全保障よりも経済を重視しがちだ。大衆にとっては、自分の当座の身の回りが平和ならば、経済的に豊かになることのほうが、遠く離れて行ったこともない海に、他国の船が入ってきた話よりも切実である。アジアにおいて、安全保障よりも経済を重視すれば、即ち嫌米親中になる。

 ビジネスにおいて、国内ビジネスで成功した者が、国際ビジネスで失敗する事態は、安全保障的視点を持たないから起こる。安全保障的視点の重要性と、安全保障と経済との考え方の違いを理解しないで国際的なビジネスをしていると、5年か10年に一度、地政学的リスク、カントリーリスクなどを遠因とする大きな損失や、社会的制裁を受ける大きな事故を起こしてブランドを毀損してしまう。

 実質上、「世界の警察」がいない国際社会においては、困難な状況になるほど、経済よりも安全保障が重要になってくる。

 経済においては、お金は一時的に失ってもまたがんばってその分稼げば問題はない。一方で、安全保障においては、人の命や領土領域は一度失うと戻ってこない不可逆的結果を生んでしまう。だからこそ国際社会では、究極の場面では、経済よりも安全保障を重視し、同盟パートナーもころころ変えずに長期間継続して信頼関係を醸成していく。

 また国内の成功体験をもつビジネスパーソンや、国内の治安行政の経験の長い政治家が、国際上の仕事をする場合、安全保障的視点の欠如によって思わぬ失敗をしてしまうことが多い。国内における峻烈とはいえ相手の手の内を知った者同士の争い事と、次元の違う思いもよらない対応をしてくる者を相手に、不可逆なものを守るのでは、まったく話が違うからだ。

 こうして、ポピュリスト的リーダーが、安全保障よりも経済を優先していると、5年もするとにっちもさっちもいかない状況に追い込まれる。それが国際政治のリアリズムである。

 端的にいえば、厳しい国際政治のリアリズムにおいては、ときの政権が民主主義的であることは、その政権がアメリカを好きになることとも、アメリカがその政権に好意をもってわがままを許すこととも関係はない。

 アメリカ人とその他の国のポピュリストが、このような大いなる勘違いをし続ける限り、今後何年も繰り返し同じように世界が回っていく。
(文=小林敬幸/『ビジネスの先が読めない時代に 自分の頭で判断する技術』著者)

小林敬幸/『ふしぎな総合商社』著者

小林敬幸/『ふしぎな総合商社』著者

1962年生まれ。1986年東京大学法学部卒業後、2016年までの30年間、三井物産株式会社に勤務。「お台場の観覧車」、ライフネット生命保険の起業、リクルート社との資本業務提携などを担当。著書に『ビジネスをつくる仕事』(講談社現代新書)、『自分の頭で判断する技術』(角川書店)など。現在、日系大手メーカーに勤務しIoT領域における新規事業を担当。

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