「国産&オーガニック、おもてなし」一辺倒で十分か?東京五輪フード・ビジョンの盲点
日本では、オーガニックと言うと、「無農薬」「化学肥料」を使わない農業および農作物という、とても狭い意味で受け止められている。日本で唯一の公的なオーガニック認証制度といえる「有機JAS規格」は、肥料や土壌改良資材については、かなりきめ細かく適合基準を規定している。農薬や収穫後に使用する薬剤についても同様である。ただし、それ以上でも以下でもない。
有機JASマークを取得するには約3年間、規格に適合した生産方法を実施してきたというエビデンス(記録など)を揃えて提出する必要があり、手間も費用もかかる。有機JAS規格について慣行農法サイド(必要に応じて農薬を使うことも否定しない立場)の農家の方々からよく聞く意見は、次のようなものだ。
「そもそも、農薬は使わない方がいいのは大前提だが、絶対的に悪ではない。肥料についても何が最適なのか意見の分かれるところだ。有機でなくても、農薬の使用を最低限に抑えながら、安定して、品質のよい野菜や米を生産している農家はたくさんいる」
一方で実際に有機農法に取り組んでいる農家の方々からは、こういう意見が聞かれる。
「農薬や化学肥料を使わないことに焦点が当たるが、大事なのは、そういうものに頼らないで、手間と時間をかけて土づくりに取り組んでいるということ。だから、品質のよい農作物ができる。そういう持続可能な農業のあり方が問題なのだが、現在の制度では、そこまでは伝わらない」
それぞれ立場は違うが、現在の規格には辛口のコメントだ。またオーガニックの視点から言えば、現在の有機JAS規格には、持続可能性という踏み込んだ視点が欠けている。
レッドトラクター
五輪にフード・ビジョンを持ち込んだイギリスの農業を見てみると、「レッドトラクター」という独自の認証制度がある。自国産の農畜産物の栽培・飼養から、流通・加工・包装、販売までの一連の過程を、高い管理規準で保証するものだ。ただ単に農薬を使うか使わないのかという話ではなく、「農村景観を含めた環境保全」や「家畜を苦痛から解放するアニマル・ウェルフェア」など、農に関するさまざまな課題が広範囲にわたってカバーされている。しかも非常にレベルの高い農業の管理規準になっているそうだ。筆者は農業の専門家ではないので、あくまでも国際的にもそのように高く評価されているとだけお伝えしておく。