これに対して、三井物産は有力な小売り企業を傘下に持っていない。そのためか、鈴木敏文氏がセブン&アイ・ホールディングスの会長を務めていた頃に、「一緒に日本マクドナルドホールディングスを買収しませんか」と呼び掛け、鈴木氏の怒りを買ったことがある。食品の卸の分野でも存在感が薄い。
その反動もあってか、世界中の資源の権益を買うことを止めない。突出して、買い続けているといっていいかもしれない。
確かに、原料炭の国際価格は急騰した。三菱商事の16年9月中間決算の利益を押し上げたが、原油や鉄鉱石は一進一退の状態だ。総合商社の業績を見ても資源高の恩恵には、かなりの濃淡がある。今後の国際価格の動向次第で、業績予想との乖離が出てくる可能性が高いのだ。
三井物産は17年3月期の連結最終利益の見通しを2000億円から2200億円に増額修正した。しかし、安永社長が、どのような経営のカジ取りをしようとしているのか、はっきり見えてこない。
株価は安すぎる?
「今の株価は安すぎる」――。岡藤社長は、こう言い続けている。16年4~9月期の連結純利益は2021億円。最高益だった前年同期に比べると5%減少したが、円高の逆風が吹くなかで、過去2番目の利益を叩き出した。非資源部門が好調を維持しており、地力(稼ぐ力)が確実に増していることを数字で証明する決算だった。
伊藤忠の17年3月期の純利益は、前期比46%増の3500億円を見込む。中期経営計画では18年同期に4000億円を達成するとしている。岡藤社長は、資源の一発勝負は避け、巡航速度でやれるとの自信を示している。
17年3月期の決算が固まる来年2月になれば、「3500億円プラスアルファ」という数字の重みが現実のものとなり、株価はさらに上伸するだろう。
17年2月中には、株価面でも伊藤忠が三井物産を突き放す可能性ある。岡藤社長は「自社株買いはやらない」と言っていたが、180億円の自社株買いを、9月中間決算と同時に発表した。規模は大きくないが市場に対するアナウンス効果はあった。株価を上昇気流に乗せるためにも、株主優遇策の次の具体化が待たれる。
伊藤忠の株価は15年6月の1756円が上場来高値だ。年末から17年年初にかけて、これを目標に上値追いを続けるとの見方が強い。