【追記あり】西武HDの背後にJR東海!?　TOBで激化するサーベラスとの攻防に政府も参戦！

　サーベラスは投資の回収の極大化をはかるために企業価値向上の具体策を提案した。１，利用客の少ない西武山口線、秩父線、多摩川線の廃止　２，「レッドアロー号」など特急料金の引き上げ　３，プリンスホテルの料金を現在のものより10％から20％に引き上げる　４、プロ野球、西武ライオンズ球団の売却　５，JR品川駅周辺の再開発案の策定ーーなどだ。

　西武HDは「地元に根ざした鉄道会社として、路線廃止は考えられない」と拒否。「ハゲタカファンドが本性を現した」として、西武線沿線の自治体や住民は猛反発した。西武ライオンズファンも反対の声を上げた。サーベラスにとって、この反発は誤算だったが、最大の誤算は株式市場の変化を読み違えたことだった。

「安倍晋三政権の誕生により、円安誘導→金融緩和の思惑から株価と地価は急上昇した。西武HDが12月に上場していれば、高値での株式の売り出しや、その後の株価上昇が見込めた。西武HDは土地持ち企業の代表銘柄として、株価の2000円大台乗せも可能だった。サーベラスは資金回収の絶好のチャンスを逃してしまった」（外資系証券会社のアナリスト）

　いまさら悔やんでみても後の祭り。そこでサーベラスは中央突破をはかる。保有株式数の引き上げや取締役の派遣などで経営に対する影響力を強め、IPOによるエクジットの極大化を図る作戦に変えた。後藤社長の交代を求め、次期社長に五味廣文氏を擁立する。

　五味氏は98年金融監督庁（現・金融庁）の業務の中枢である検査部長に就いて以来、検査局長、監督局長を歴任、04年7月に金融庁長官に就任。07年7月、金融庁顧問に退くまで、金融庁は「五味王国」と陰口を叩かれた。

　五味氏が現役時代に最も仕事をしたのは、小泉構造改革を推進した竹中平蔵・金融相の時代。銀行に対する横並びの護送船団を止め、自由度を与える代わりに不良債権の半減目標を達成するために厳しい金融検査を行った。

　なかでも、竹中金融相の右腕として不良債権処理に辣腕を振るった木村剛・金融庁顧問との関係は濃すぎた（度が過ぎたという辛辣な批判もある）。“木村銀行”と呼ばれるようになる日本振興銀行（10年9月経営破綻）にいち早く銀行免許を与えたのは竹中金融相と五味金融庁長官だった。木村氏が04年10月に創刊した金融経済雑誌『フィナンシャルジャパン』の創刊準備号に、金融庁長官の五味廣文氏と木村剛氏の対談が7ページにわたって掲載された。金融行政のトップが、新興の銀行経営者の宣伝媒体に協力したことに対する風当たりはものすごかった。

「五味氏は旧大蔵官僚の一つの典型であった政治家タイプで、荒業ができる。大蔵省の裁量行政を真っ向から批判し、若手の論客として頭角を現した木村氏を、（金融庁の）大蔵からの独立路線を支える先兵として使おうとした」（旧大蔵省の有力OB）との見方が定着している。

　五味氏は、木村氏のような暴れん坊が好きなのである。07年7月に金融庁長官を退任してから、わずか半年後に、金鉱山開発のジパング（のちにジパング・ホールディングス）の顧問となり、08年6月に社外取締役に就任。これには金融界は呆気にとられた。ジパングはまともに上場できないので2度も裏口上場を試みた胡散臭い会社と見られていたからだ。

　初代ジパングは08年、日本証券業協会グリーンシート登録の岩盤浴会社のアスクリンクに吸収合併され、ジパング（2代）に商号変更。2代ジパングは10年にジャスダック上場のテレビショッピング会社、プライムに吸収合併され、ジパング・ホールディングスに商号変更した。ジャスダックは一連の合併が裏口上場の疑いがあるとして「合併等による実質的存続性の喪失」に係わる猶予期間入り銘柄（2013年3月までが猶予期間）に指定した。商号はジパングHDからジパング（3代）に変更している。

　案の定だ。創業者で投資家の松藤民輔氏が自社株を担保にした株投機に大失敗して、自社株を強制的に売却される事件が起きた。これが表面化する直前の11年2月、五味氏はジパングHDの取締役を辞任。「ジパングの広告塔に利用されただけ」との冷ややかな指摘もあった。