冒頭で述べた外国人宿泊者のデータは、高山市役所ブランド・海外戦略部海外戦略課マネージャー林秀和氏へのヒアリングから得たものであるが、このほかにも海外旅行者の同行人数、旅行形態、訪問回数、滞在期間、消費額などの情報が国別に整理されていた。こうした情報は、単に宿泊施設に問い合わせるだけでは入手することができず、直接、消費者に確認するしか手段はない。
そこで高山市では、外国人観光客の利便性アップに向けて取り組んでいる無料Wi-Fiを活用し、登録時に入手した外国人観光客のメールアドレスを用いてアンケート調査を実施している。また、宿泊施設の協力を得た紙ベースでのアンケートも実施し、平成27年の調査においては、それぞれ500サンプル、計1000サンプルのデータを収集している。ちなみに、Wi-Fi登録時に入手した外国人観光客のメールアドレスは、緊急災害情報の連絡などにも活用されている。
外国人観光客を対象としたアンケート調査から、さまざまなことがわかる。例えば、アジアからの観光客、とりわけ台湾からのリピート率は極めて高い。中国や韓国からは日本での滞在期間が短くても高山を訪れるが、欧米からの場合、2週間以上の日本滞在でないと高山まで足を延ばさない。韓国からの観光目的においては、登山などが目立つといったことが明らかとなり、こうしたデータに基づき、戦略的な観光PRが可能になっている。
こうした観光の誘致には当然のことながら、実施するための費用が発生する。しかしながら、行政の支援のみでは資金に限界がある。また、急な海外の旅行事業者からの視察依頼、海外の観光展への出展など、事前に予算計上できない支出も発生するが、行政から支援される資金は極めて柔軟性に乏しく、対応できない状況であった。
こうした問題を踏まえ、高山においては、飛騨高山国際誘客協議会(高山版DMO/Destination Marketing Organization:目的地をマーケティングする組織)が立ち上げられている。活動内容は、海外誘客に関するプロモーションに加え、外国人旅行者へのアンケート、さらには外国語マップやパンフレットなどの作製も行っている。こうした取り組みは高く評価され、昨年行われた第2回ジャパン・ツーリズム・アワードで大賞に輝いている。
組織構成においては、高山市や観光協会に加え、宿泊施設、観光施設、特産品販売事業者なども会員となり、一口10万円の会費を納めている。協議会の源流をたどれば、昭和57年に設立された飛騨高山観光協会に行き着く。設立に際して、当時の会長は「行政に頼るだけではなく、観光を生業にするなら、事業者自らが金を出さなければならない」と考えて尽力されたようである。こうした精神がDNAのように現在にまで受け継がれている。
事務局を務める高山市海外戦略課によると、協議会は直接利益を上げる組織ではないため、「事業費をいかに大きくできるか」をKPI(Key Performance Indicators:重要業績評価指標)と捉えているとのことであった。事業費が大きくなるということは、協議会の取り組みが多くの人に認められ、会員および会費が増加するという流れが実現していることになる。分配された資金を使うという行政的な受け身の姿勢とは対極にあるといえる。
恵まれた観光資源に甘えるだけではなく、こうしたDNAに基づく、徹底した取り組みが高山観光の大きな成功を支えていることがわかる。
(文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授)