マイナー魚「どんこ」の固定メニュー化に成功
未利用魚のメニュー化は、人手をかけることで成り立っている。たとえば、配送面では東京国際空港(羽田空港)から20分ほどの場所に「集約センター」を設置。全国の産地から羽田空港に毎朝届く魚を、センターに常駐する5~6人のスタッフが各店舗にまんべんなく配送することで“要の役割”を担っているという。
「漁師さんには魚種を指定していないので、『届いた段ボールを開けたら、ムツばっかりだった』ということもよくあります。それを新しい箱にバランスよく振り分けて、各店舗に配送するのです。仮に、見たことのない魚が入っていた場合、調理の腕が秀でている料理人の方がいるお店に送ろうか、などの判断も配送のスタッフに委ねています。もちろん、魚種ごとに1kg単位で値付けをし、きっちり計算もしています」(同)
このように人手をかけることが、最終的に漁師の安定的な収入につながるわけだ。
「漁協に卸したほうが値が高くなるときもあるのですが、その場合は弊社がより高く買い取ります。マイナーな魚も値付けしているので、漁師さんの収入がぶれなくて済むのです。もちろん、私たちもいい状態の魚をお客様に提供したいので、『丁寧に扱ってください』『ちゃんと締めてください』など、こちらからいろいろとお願いもしています」(同)
こうした取り組みによって、固定メニューに組み込むことができた未利用魚も誕生した。
「『どんこ』という深海魚です。東北の三陸では『どんこ汁』という郷土料理に使われていて、冬場のソウルフードとして愛されてきた魚です。ただ、見た目が不細工で、しかも鮮度落ちが早いこともあり、全国的には知られていませんでした。
これを『四十八漁場で提供するなら、どうすればいいか』と考えた結果、魚をおいしく長持ちさせることができる『神経締め』にするのはどうかという結論に至りました。神経締めとは、魚の眉間から脊髄にかけて形状記憶ワイヤーを入れる方法です。神経を掻き出し、魚は死んでも身はまだ死んだと認識しない状態になるため、身の硬直を防げるんです。
ただ、手間がかかる作業なので、最初は、漁師さんたちも前向きではありませんでした。でも、『獲って漁協に売ったら終わりの時代』は終わりにし、獲った魚の価値を上げていく方法にしないとジリ貧ですよ、と。飲食店も同じで、今や新たな価値をつけて売る時代になっています。それを、漁師さんに共感してもらう必要がありました。『その代わり、納得していただける価格で買い取りますよ』ということで取りまとめたのです」(同)
マイナー魚のどんこを固定メニューにしたことで、テレビに取り上げられるなど四十八漁場の認知が高まり、最近はどんこが都内の鮮魚店でも買えるようになった。ついには、どんこの市場価格が1.5倍から2倍ほど高騰したというから、同社の戦略がはまったといえるだろう。