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前川修満「会計士に隠しごとはできない」

【検証:東芝、債務超過の原因と過程】粉飾でわざわざ巨額のカネを無駄に流出

文=前川修満/公認会計士・税理士、アスト税理士法人代表
【検証:東芝、債務超過の原因と過程】粉飾でわざわざ巨額のカネを無駄に流出の画像1東芝の綱川智社長(長田洋平/アフロ)

 東芝債務超過となり、東証2部へ降格になりそうです。名門企業である同社の長い歴史のなかでも最大の汚点です。
 
 会計士・税理士である筆者は、数年前より東芝の「会計」の甘さが気になっていましたが、本稿では具体的に解説したいと思います。

1.キャッシュ・フローに無頓着

 たとえば、下記は粉飾発覚前の財務データです。

【検証:東芝、債務超過の原因と過程】粉飾でわざわざ巨額のカネを無駄に流出の画像2

 これをみると、損益計算書のデータは粉飾していたため、7年間の累計で1,002億円の黒字を出していますが、キャッシュ・フロー計算書のデータは、企業経営の苦しさを物語っています。

 たとえば、2009年3月期は営業キャッシュ・フローが160億円のマイナスであり、投資キャッシュ・フローが3,353億円のマイナスになっています。この両者を合算すると3,513億円のマイナスになります。これを「事業活動によるキャッシュ・フロー」といいますが、これがマイナスだということは、「事業をして稼ぐお金よりも、事業を維持するために出てゆくお金のほうが大きかった」ことを意味します。

 早い話、この時期の東芝は、お金を稼ぐことができなかったのです。その結果、前述の7年間トータルでは、事業活動で1,352億円を失っていることがわかります。

 ところが東芝の経営陣はキャッシュ・フローに疎く、このような経営を継続し、執行役員に業績連動給を払っていました。その業績も彼らのいう「チャレンジ」(「粉飾」の隠語)の賜物であるのならば、支給すべき筋合いのものではありません。

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 このように、見栄えの良い損益計算書と、見栄えの悪いキャッシュ・フローが並立する会社というのは、何らかの問題をはらんでいることが多いのですが、東芝の場合、それが粉飾決算であったことが後日明らかになりました。

 しかし、かりに粉飾決算が行われなかったとしても、キャッシュ・フロー計算書のデータが望ましくない会社の経営というのは、要注意です。
 
 これは東芝に限ったことではありません。たとえば、下記は日本の製缶メーカーのトップ企業ともいえる、東洋製罐グループホールディングスの財務データです。

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 損益計算書はまずまずの業績を示していますが、事業活動によるキャッシュ・フローが7年間のトータルではマイナスになっています。その結果、お金が足りず、借金が増えています(下記のグラフ)。

【検証:東芝、債務超過の原因と過程】粉飾でわざわざ巨額のカネを無駄に流出の画像5

前川修満/公認会計士・税理士、アスト税理士法人代表

前川修満/公認会計士・税理士、アスト税理士法人代表

1960年石川県金沢市生まれ。同志社大学商学部卒業。公認会計士・税理士・日本証券アナリスト協会検定会員。澁谷工業株式会社、KPMG港監査法人(現・あずさ監査法人)を経て、1992年に公認会計士・前川修満事務所を開業。2006年にはアスト税理士法人を設立し、代表社員に就任。これまで、数多くの経営者や会社員に、セミナーや書籍を通じて決算書の読み方を解説してきた。決算書を通して企業の「裏の顔」を見つけ出す方法とその面白さを知ってもらいたい、との思いから2015年に『会計士は見た!』(文藝春秋)を執筆。『やっぱり会計士は見た!―本当に優良な会社を見抜く方法』は、決算書から「裏の顔」を見出す手法をいかし、優良な会社をいかに見抜くか、さらにそこから日本企業が今後何をすべきか、という視点で著した。

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