3.資産評価に甘い
もうひとつ、東芝の経営で重大な問題として、資産評価の甘さが指摘されます。東芝の粉飾が発覚した15年、その粉飾の実態を把握するために、東芝では第三者委員会を設置し、粉飾の実態を調査させました。
その第三者委員会の報告によれば、粉飾金額の総計は1,500億円程度とされましたが、この報告書には、「のれん代」と「繰延税金資産」という2つの重大な資産の評価が省略されていました。ちなみに14年12月31日おいて、これらの資産の金額は以下の通りでした。
・のれん代 1,153,897百万円
・短期繰延税金資産 152,875百万円
・長期繰延税金資産 242,699百万円
これらの資産の評価は、過去及び将来における会社の収益力によって左右されます。すなわち、収益力が低いと資産価値が毀損していると判断され、資産ではなく費用として処理することが求められます。
ということは、粉飾の発覚に基づき、収益・費用が訂正され、過年度の利益額が下方修正された場合、上述の「のれん代」や「繰延税金資産」の金額も見直しの対象になってしかるべきでした。しかし、第三者委員会はこれにまったくメスを入れませんでした。いったい、なんのための第三者委員会なのでしょうか。
そもそも、正しい開示をすることを東芝が決めたのであれば、他人(第三者委員会)任せにせず、自らの手で正しい数値を報告すべきだったのではないでしょうか。それゆえ、筆者は第三者委員会なるものを信用する気になれません。
その結果、15年度以降の年度において、「のれん代」と「繰延税金資産」」の大幅な減損処理が行われることになりました。しかし、それは15年度以降の損失ではなく、14年度以前に認識すべき損失であったのです。
これは、東芝において資産査定能力が極めて低下したか、もしくは意図的に決算書データを改竄しようとする風土が残っていたかのいずれかを示す証左です。東芝の経営を大ピンチに追いやった、重大な要因のひとつでもあります。
4.もう一つの重大なダメージ
前述したように、「会計」に対する取り組みの甘さ(もしくは「いい加減さ」)は、東芝の経営にとって命取りになりかねない状況をもたらしました。現在、東芝は事業を売却し、金融機関の支援を仰ぎ、増資を行うなどの資金策に奔走しています。
そのなかで、悔やまれるもう一つのポイントは、法人税の納付と配当金の支払いです。08年3月期から14年3月期まで、東芝の法人税の計上額は、以下の通りでした。
総額で4,148億円ですが、もし粉飾に踏み切っていなければ、これらの法人税の負担はぐっと軽くて済んだのではないでしょうか。また、08年3月期から14年3月期まで、配当金の支払いは、以下のとおりでした。
その配当金の支払いの総額は2,342億円です。これも粉飾をせずに早期に減配もしくは無配としていれば、傷口はもっと浅くて済んだはずです。
このように、東芝は粉飾によって会計の数値をごまかしただけでなく、きわめて巨額の無駄な資金流出を行いました。もし東芝が粉飾を行わずに無駄な法人税を納めず、かつ早めに減配等の措置をとっていれば、債務超過に陥らずに済んだ可能性があります。
これは、東芝を債務超過に追い込んだ重大な要因です。「適正な会計」という企業経営の基本を軽視したツケが、このような大きな経営難を東芝にもたらしたのです。
【まとめ】
お断りしておきますが、東芝の経営陣や従業員たちは無能な人たちではありません。日本でも、否、世界中を見渡しても、東芝は数少ない優れた頭脳集団です。しかし、いかに優れた頭脳集団であっても、「適正な会計」を軽視する経営は、大きな蹉跌の原因となります。
東芝での出来事は、粉飾には一文のトクもないうえに、巨大な災いをもたらすことを経済界に強く印象づけました。
(文=前川修満/公認会計士・税理士、アスト税理士法人代表)