中国で死者多数の鳥インフルエンザ猛威 さらにPM2.5で医薬・除菌など“マスク銘柄”急騰
中国でH7N9型鳥インフルエンザで死者が増え続けている。4月4日夜の時点で死者は5人、感染者数は死者を含めて14人となった。WHO(世界保険機構)は現在までのところ、人から人への感染例はないとしているが、人から人へ感染するタイプにウイルスが変異する可能性は否定できない。ウイルスの感染拡大の懸念が強まり新型鳥インフルエンザ対策関連銘柄は連日、急騰している。
4月4日の東京株式市場で空気中のウイルスなどを抑制する除菌製剤、クレベリンを手掛ける大幸薬品はストップ高で前日比150円(16.9%)高の1038円と年初来の高値を更新した。東証1部の株価上昇率で第1位。
鳥インフルエンザワクチンの開発を進める、創薬ベンチャーのUMNファーマ(東証マザーズ)はストップ高で同700円(18.4%)高の4500円。インフルエンザ簡易診断薬を手掛けるカイノス(JQ上場)は同25円(3.7%)高の698円だった。
中国当局がタミフル、リレンザ、イナビル、ラピアクタの4種類の抗インフルエンザ薬が効果がある可能性が高いとしていることから、ロシュ社のタミフルの国内販売元の中外製薬は2328円の年初来高値をつけた後、201円高の2325円で引けた。イナビルは第一三共(45円高の1761円、高値は1763円)、ラピアクタは塩野義製薬(6円高の1928円、高値1929円)も買われ、シキボウ、ダイワボウホールディングス、アゼアス(東証2部)、栄研化学なども賑わった。アゼアスは米デュポン製の防護服を販売している。ここまでくると連想ゲームに近い。
一方、中国の清華大学などは2010年の中国の死者の約15%に当たる123万4000人が、微小粒子状物質、PM2.5などの大気汚染が原因で早死にした、との研究報告をまとめた。このショッキングな報告は精華大学で開かれた「大気汚染と健康に関する研究会」で発表された。
同報告書は「大気汚染の影響はインドやパキスタンなどでも大きく、世界では320万人が早死にした」としている。報告書は「大気汚染は今日、世界のトップリスクになっている」と分析している。
日本でも大気汚染には敏感だ。「PM2.5は中国だけでなく、国内のたばこの受動喫煙、排気ガスにも多く含まれていることが報じられている。ひょっとしたら、PM2.5の来襲で3月に株価が急伸したが、初夏以降もPM2.5関連相場が続くかもしれない」。兜町では、こうした強気の見方が増えている。
大気汚染の原因の一つとされるPM2.5が、時ならぬビジネスチャンスを産業界にもたらした。
空気清浄機が売れている。日本電機工業会が発表した白物家電の2013年2月の国内出荷実績によると、空気清浄機は前年同月比49.5%増の45万台強と大幅に伸びた。金額では同47.6%増の115億円に達した。1月は台数・金額ともに前年実績を下回っていたが、PM2.5や黄砂の飛来の予報を受けて2月に急増した。
変な言い方だが汚染の本場、中国でも空気清浄機は売れている。命に関わるのだから深刻だ。値段が高くても性能の良い日本製を買う。中国の空気清浄機の市場規模は、2007年の61万台から2012年には162万台に急増した。
勢力地図を見ておこう。空気清浄機はシャープ、パナソニック、ダイキン工業の3社の寡占状態。中国向けに増産している。今、後発のダイキン製のモデルが売れているという。ダイキン製品は中国市場で1月に前年同月比3.6倍と躍進した。
東芝は中国の家庭用の空気清浄機市場に新規参入する。中国で委託生産し、国内で販売しているのと同じ製品を4月から投入した。
各メーカーとも中国の富裕層を当て込む。中国の大気汚染問題は一朝一夕に解決できない。今後とも、空気清浄機の市場の急拡大が見込めると判断している。
マスクもチャンス到来だ。家庭用マスクの最大手の興和は「3次元マスク」の生産量を5倍に引き上げる。中国での販売も始める。アイリスオーヤマはズバリ「PM2.5マスク」(商品名)を4月1日から国内で発売した。5枚入り600円だ。生産は中国・大連の工場。九州地域から順次発売して、3カ月間で250万枚の販売を目指す。
不織布で国内最大手の日本バイリーンは、米国規格の「N95」に適合する高性能マスクの生産を5割増やし、子供向けの「PM2.5対応マスク」を3月末に売り出した。中国市場向けにも大人用の同じマスクを企画している。日本製の高機能マスクは、中国での需要が高まると見ているからだ。ドラッグストア最大手、マツモトキヨシホールディングスの2月の販売量は前年同期比3割増。関西以西では同6割増だった。
住友スリーエムの「3MVフレックス防塵マスク」は品切れ。オンラインストアで注文しても買えるのは2週間後だ。九州で数少ない抗体マスクメーカーのクロシードにはPM2.5対応マスクの注文が殺到。出荷量は例年の4倍を見込んでいる。
北京の日本大使館が「N95マスク」を推奨してから、マスク人気に火がついた。「N95」マスクは、もともと工場の粉塵対策や病院で感染症予防に使われているものだ。PM2.5は直径2.5マイクロメートル(1マイクロメートルは1ミリの1000分の1)以下の小さな粒子。通常のマスクではすり抜けてしまう。「N95」タイプは、0.06~2.5マイクロメートルの微粒子を捕集できるすぐれものだが、実際にマスクをしてみると、かなり息苦しい、という人が多い。それでも売れている。
3月には株式市場でマスク関連銘柄が人気を集めた。
工場の防塵用マスクを作っている興研(JQ上場)、産業用防毒マスクの重松製作所(同)の株価は、3月11日にそろって昨年来の高値をつけ(興研、3530円、重松1699円)、昨年来の安値から4.5~4.7倍になった。PM2.5を簡単に連続測定できるセンサーを開発中の神栄も買われた。湿度センサーで世界首位だが、赤字である。それでも、昨年の10月の安値97円(今年の年初来の安値は100円)から、3月12日には418円と株価は4.3倍に大化けした。排ガス分析計のエー・アンド・デイ、環境コンサルタントの、いであ(JQ上場。国土環境と日本建設コンサルタントが合併)、環境コンサルタントの環境管理センター(同)なども動意付いた。
これらPM2.5対策関連銘柄は、含み資産関連銘柄と同様に、3月に大相場を演じた。
さらに、鳥インフル・ショックで、4月もPM2.5来襲以来の動きとなり、興研と重松製作所は4月3日の後場、ストップ高まで駆け上がった。4日は興研が前日比284円(13.2%)高の2435円。重松製作所は同112円(11.6%)高の1081円と続騰した。
PM2.5に鳥インフルエンザ。どちらも人命に関わるだけに皆、真剣だ。だから株式市場でも関連銘柄が買われるわけだ。PM2.5に加えて新たな“材料”としてH7NP型鳥インフルエンザが飛び込んできた。さてさて、どこまで広がりを見せるかだ。
なお、東証1部上場銘柄と非上場の会社については、市場名を明記していない。
【PM2.5関連銘柄株価】(2013年の年初来の高値と安値、単位:円、倍)
興研 マスク 3530(3月11日) 891(1月4日) 4.0 2435 \↗
重松製作所 マスク 1699(3月11日) 391(1月4日) 4.3 1081 \↗
日本バイリーン 繊維製品 642(3月7日) 360(1月9日) 1.8 482 \↗
マツモトキヨシHD 小売り 2749(3月25日) 2028(1月4日) 1.4 2644 →
神栄 卸売り 418(3月12日) 100(2月15日) 4.2 234 ↘
エー・アンド・デイ 精密機器 638(3月7日) 321(1月9日) 2.0 503 ↘
いであ 環境調査 1300(3月8日) 588(2月15日) 2.2 852 ↘
環境管理センター 環境調査 1734(3月11日) 304(1月4日) 5.7 814 ↘
【H7N9型関連銘柄株価】(2013年の年初来の高値と安値、単位:円、倍)
大幸薬品 医薬品 1038(4月4日) 813(1月4日) 1.3 1038 ↗
UMNファーマ 医薬品 4945(3月8日) 1690(1月4日) 2.9 4500 ↗
カイノス 医薬品 818(3月28日) 352(1月4日) 2.3 698 \↗
中外製薬 医薬品 2328(4月4日) 1655(1月4日) 1.4 2325 ↗
栄研化学 医薬品 1570(4月4日) 1106(1月4日) 1.4 1421 \↗
シキボウ 繊維製品 133(4月4日) 101(2月15日) 1.3 124 →
ダイワボウHD 繊維製品、IT 203(2月4日) 163(4月2日) 1.2 189 →
アゼアス 卸売り 630(3月11日) 361(1月4日) 1.7 537 \↗