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社長は、齢が50は離れているであろう若造のぼくに、必死に頭を下げて頼みます。しかし、ぼくには見逃したり、譲歩するような権限や知識はなく、「決まったことですから」の一点張りしかできません。心苦しい気持ちに耐えられず、突き放して帰ってもらいました。
社長の預金口座にお金がないことは、準備調査でわかっています。だから、追徴課税は分割で納付されると考えられます。つまり、国に借金をした状態です。あと何年働けるかもわからない70代の夫婦が、いきなり何百万円という借金を背負わされるのです。そう考えると、手が震え、足が竦みます。社長が帰ったあと、上司に相談しました。上司はぼくの話を聞いてから、切り捨てるように言いました。
「あいつらは嘘をつく生き物だから。『払えない』ということは、『払える』ってことだ。お前はまだ若いから、そのことがわからないんだ」
ぼくは「でも、あのおじいさんは嘘をついていないと思います。本当に払えないんだと思うんです」と食い下がりました。すると上司は、「わかった。お前がそんなに言うなら半分でいい。今回は半分だけ否認しよう」と譲歩してくれたのです。
ぼくは翌朝、そのことを伝えるために社長の自宅に向かいました。絶望している社長に、直接伝えたい――。それはぼくの自己満足だったのかもしれません。初めて行く社長の自宅付近で地図を広げて歩いていると、30mぐらい先の家から見覚えのあるおじいさんが出てきました。そう、社長です。
社長は、税務署に来た時とは打って変わって、真っ黒なライダーススーツを着て赤いブーツ履き、ハーレーダビッドソンのバイクに乗って出てきたのです。
ぼくは、それ以来、他人が信じられなくなりました。
(文=さんきゅう倉田/元国税職員、お笑い芸人)
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