東芝メモリの売却で日米韓連合が有力先候補に躍り出たのは、首相官邸が口先介入してきたからとの指摘がある。
東芝メモリの買収にはウエスタンデジタル(WD)などの米国勢のほか、韓国のSKハイニックス、シャープを買収した鴻海精密工業と半導体受託製造大手の台湾積体電路製造(TSMC)の台湾連合、中国の半導体大手の紫光集団が名乗り上げていた。
関係筋は、東芝のフラッシュメモリ技術を世界中で一番欲しがっているのは紫光集団だろうとの見方で一致している。紫光は、かつて米マイクロン・テクノロジーの買収やWDへの資本参加を企てたが、中国による米国企業の買収を懸念する米国当局によって排除されてきた。
菅義偉官房長官は4月11日の記者会見で、東芝の半導体事業の売却について「外為法に基づく審査は事前届出制の対象であると思うので、国の安全などの観点から厳格な審査を進める」と述べた。
中国や台湾の企業が受け皿に決まれば、外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づいて中止や見直しを勧告することを示唆している。政府は東芝の半導体技術は安全保障にかかわる重要技術だから、流出を防ぐという立場だ。東芝メモリの売却に関して、安倍首相の縛りがかかったといっていい。
この時点で東芝メモリの売却は純粋な経済問題=会社の売り買いから、政治問題へと移行した。
首相官邸の意向を受け経済産業省は、東芝メモリの買収に介入するようになる。それまでは「民間同士の取引に役所が口出すわけにはいかない」と静観していたが、官邸に背中を押されて介入を急いだ。
官邸=経産省の頭にあるのは、中国政府に近い台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)による買収だけは断固阻止することだ。経産省の菅原郁郎事務次官や安藤久佳商務情報政策局長(7月5日付で中小企業庁長官に就任)らは当初、日本国内の大企業に出資を打診した。日立製作所をはじめ、ソフトバンクグループの孫正義社長や日本電産の永守重信会長兼社長など、思い切った経営判断ができるワンマン経営者へ手当たり次第に打診したが、興味を示す企業はなかったという。