次に、複数の日本企業から1社あたり100億円前後を集め、官民ファンドの革新機構や政府系の日本政策投資銀行とともに出資する「奉加帳方式」が検討された。富士通や富士フイルムホールディングスなどが候補に挙がったが、「株主に説明がつかない」ことを理由に断ったところもある。
経産省の奥の手が日本企業連合だったのだ。自らの影響力が及ぶ革新機構と政投銀に米投資ファンドのベインキャピタルを加えた日米連合を立ち上げたが、このメンバーだけでは、買収価格が東芝の求める2兆円の大台に手が届かない。終盤になって韓国のSKハイニックスを加えた日米韓連合となったのは2兆円を下回らないための数字合わせだった。
「技術流出の防止、雇用確保など条件を満たしており、歓迎したい」。世耕弘成経産相は、この決定を自画自賛してみせた。
鴻海は「経産省局長が邪魔をした」と噛みつく
経産省主導の東芝メモリ売却劇に納得できないのが、ホンハイの郭台銘董事長だ。ホンハイの入札額は一説には3兆円に近いといわれ、群を抜いた最高額である。革新機構側は当初、買収金額を提示できず、SKハイニックスを加えて、やっと買収額2兆円の大台を提示できた。当然のことだが、鴻海の3兆円には遠く及ばない。経済合理性に基づけば、ホンハイで決まりのはずなのだが、シャープの買収問題で煮え湯を飲まされた経産省は「ホンハイはダメ」との姿勢で一貫している。
ホンハイの6月22日の株主総会後の記者会見で、郭氏が怒りを爆発させた。同日付朝日新聞はこう報じた。
「鴻海(ホンハイ)精密工業(台湾)の郭台銘(かくたいめい)会長は22日、東芝半導体子会社『東芝メモリ』の売却の入札について、経済産業省の担当局長の実名を挙げて、『鴻海の邪魔をした』と、日本政府の姿勢を批判した。(中略)昨年、シャープを買収した際にも、『できればシャープを買わない方が良い』と同じ経産省の局長に言われたというエピソードも披露。(日米韓に優先交渉権と報じた)東芝メモリの関連記事が載った現地紙を破って怒りを表わした」
朝日新聞は実名を記載していないが、“経産省の幹部”とは、東芝メモリの売却劇を主導してきた前出・安藤氏を指している。郭氏は「まだチャンスは5割以上ある」と怪気炎をあげているという。
郭氏は経産省主導の入札は「ペテンだ」と激しく口撃しているが、東芝メモリの売却劇は、もともと「デキレース」なのである。