6月に開催された株主総会のなかでもっとも注目されたのは、武田薬品工業だった。
株主15人から、相談役や顧問などの廃止を求める株主提案が出されていたからだ。14年間にわたって社長や会長を務めた長谷川閑史氏が、6月28日に開催される株主総会をもって退任し、相談役に就くことになっていた。
東芝の不正会計問題をきっかけに、経営トップが退任後も院政を続けることを防ごうという動きが広がってきている。武田薬品の株主たちの間でも、相談役や顧問の廃止を求める株主提案についてどう賛否を示すかに関心が高まった。
取締役9人の選任の議案は、賛成多数で可決された。クリストフ・ウェバー社長兼CEO(最高経営責任者)が93.07%の賛成を得たのをはじめ、全取締役が93%超と高率だった。一方、長谷川氏の「取締役の解任」を求める株主提案は賛成率8.35%で否決された。
相談役や顧問のポストの廃止を求めた株主提案が、今年の株主総会の最重要議案だった。会社側は「権限が極めて限定された相談役が、強い影響力を及ぼすことは考えられない」と提案に反対を表明。「長谷川氏の年間報酬額を現在の12%ほどに減らし、社用車や専用秘書を置かない」と説明して株主に理解を求めた。株主提案を行った15人のうちの1人が、長谷川氏の実績を疑問視し、「相談役に残ることはガバナンス(企業統治)改革の動きに逆行する」と発言すると、会場から拍手が湧いた。結局、株主提案の賛成率は30.51%。否決されたものの、多くの株主の支持を得た。
株主総会で議長を務めた長谷川氏は総会後、「ご懸念が現実のものにならないよう誠心誠意努めていきたい」と語り、相談役に就任した。
17年3月期の有価証券報告書によると、長谷川氏の年間役員報酬は4億900万円。このうち基本報酬は1億1700万円。基本報酬の12%の1400万円強が相談役としての年間報酬となるのだろうか。
北陸電力や四国電力の総会でも、相談役や顧問の廃止を求める株主提案が出されたが、いずれも否決された。
一方、日清紡ホールディングスや阪急阪神ホールディングスは今年、相談役制度の廃止を決定。J.フロントリテイリングも相談役の新任を認めない決定をした。
機関投資家に議決権行使を助言する米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は、今年の株主総会を前に、相談役や顧問を新設する議案には原則として反対することを推奨していた。日本特有の相談役や顧問の廃止を求める株主提案が相次ぐ背景には、海外の投資家の間に、日本企業のガバナンスに対する根深い不信がある。来年は「相談役・顧問ノー」の株主提案がもっと増えるだろう。