人手不足に対応するために、各企業の現場ではサービスのレベルを引き下げる、営業時間を短縮するなどの対応策がとられている。人件費が増加し、需要の取りこぼしが発生するなかで減益に直面する企業は増えている。
本来であれば、コストの増加分を価格に転嫁し、利ザヤを確保したいのが経営者の本音であるはずだ。しかし、日本全体で消費意欲は高まっていない。さまざまな要因が考えられるが、現役世代、高齢者ともに将来への不安心理は根強いようだ。そのため、景気が上向いても需要が高まりづらく、デフレ脱却は実現できていない。
このように考えると、人手不足の問題を解決し、需要を的確に取り込んで経済成長につなげることこそが安倍政権の使命といえる。足元の景気回復のモメンタム(勢い)が減じた場合には、需要の低下からデフレ経済が深刻化するシナリオも排除できない。景気にもろさがあることは軽視すべきではない。
IT技術の活用と同一労働同一賃金の重要性
基本的に、人手不足の解消は中長期的な視点で議論されることが多い。短期間で、出生率を引き上げ、生産年齢(15歳から64歳)人口の増加を目指すのは現実的ではないからだ。人口減少を食い止めるには、移民の受け入れが必要との見方もある。しかし、移民が増えれば犯罪が増えるのではないかという漠然とした不安を感じる人は多い。また、英語をはじめとする外国語の導入が遅れるなかで、日本社会に海外からの労働者が順応できるかという問題もある。
同時に、人手不足は喫緊の課題でもある。政府は、効果が発現しやすいと考えられるものから順に改革を進めなければならない。特に、IT技術などの活用、同一労働同一賃金の推進は不可欠ではないか。ドローンを用いた配達、人工知能を用いたルーティンワークの自動化など、新しい技術が応用できる範囲は多いはずだ。そうした取り組みを進めない限り、ひとりあたりの生産性(一定時間の労働でどれだけの付加価値が生み出されるかを評価する尺度)を向上させることは難しいだろう。
また、非正規雇用者の待遇改善も重要だ。景気回復が戦後2番目の長さに迫っているにもかかわらず、実質ベースでの可処分所得(税金や社会保険料などを支払った後の手取り収入、自らの意思で自由に使える所得)は増加トレンドとなっていない。同時に、非正規と正規社員の賃金格差は3割以上ある。この格差を是正すれば、可処分所得の増加につながり、消費意欲の底上げ効果が期待される。