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アベノミクス、日本全体に「利益なき繁忙」…国民の可処分所得増加なき景気回復

文=真壁昭夫/法政大学大学院教授
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 非正規雇用が減れば労働コストが増加し、企業の利益が圧迫されるという批判もある。しかし、個々人がその実力に応じて評価される仕組みを目指すことは、経済の活性化のためにも重要だ。

 安倍政権の経済政策の呼称であるアベノミクスが掲げた成長戦略は、こうした取り組みの推進を重視していたはずだ。17年の骨太方針でも政府は人材への投資を進め生産性を引き上げるべきとの主張を繰り返している。今後は、そうした考えを具現化しなければならない。安倍政権は成長戦略の原点に立ち返り、労働市場を中心とした構造改革を進めるべきである。

行き詰まる金融・財政政策

 
 構造改革の重要性は、金融政策と財政政策が行き詰まりつつあることからも指摘できる。13年以降、安倍政権はデフレ脱却が実現されてこなかったのは日本銀行が金融緩和策に消極的であったからだと考えた。この結果、量的・質的金融緩和をはじめとする異次元の金融緩和が今日まで続けられてきた。

 しかし、物価は日銀の目標とする2%には届かず、デフレ脱却は実現できていない。日銀は、発行済み残高の4割に相当する国債を流通市場から買い入れ、さらなる量的緩和策の拡大は難しい。金融業界を中心にマイナス金利の引き下げは利ザヤを低下させるとの批判を受けるだろう。さらなる金融緩和の方策を模索するよりも、景気が回復し株価が上昇している間に金融政策の正常化を進めるべきと考える専門家は増えている。

 また、政府は財政の再建にも取り組まなければならない。問題は、高齢化が進むなかでいかに歳出を抑えるかだ。また、これまでは景気の押し上げには補正予算が必要との発想も多かった。

 20年度に基礎的財政収支(プライマリーバランス:その時点で必要な政策経費を、その時点の税収でどれだけ賄えているかを示す指標)の黒字化が目指されているなか、財政を拡張的に運営することは難しくなるだろう。

 金融・財政政策の発動余地が限られるだけに、政府は構造改革を進めるべきだ。現在、世界経済ではビッグデータやネットワーク技術など、今後の経済成長をけん引すると考えられる分野への注目が高まっている。そうした技術やコンセプトを実用化し、従来にはなかったサービスやモノが生み出される環境を整備しなければならない。ヒット商品が創出されれば、需要が高まり、経済は成長できるだろう。

 どれだけ金融を緩和しても、ヒット商品は生まれなかった。この点で、政府はどのような成長戦略が、民間企業の設備投資や人材育成への意欲を高めるかに関する議論を進めなければならない。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

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