資生堂の取り組み
一方、自社のコンセプトを協賛するスペシャリスト集団の作品に重ねて表現しているのが資生堂だ。デジタル時代のさまざまな分野のスペシャリストで構成するウルトラテクノロジスト集団「チームラボ」(東京)は、佐賀県武雄市の御船山楽園で「自然が自然のままアートになる」というコンセプト展示を2015年から行っているが、資生堂は今夏、そのイベントに協賛。プロジェクションマッピングなどのテクノロジーを駆使したチームラボのアート作品と、自社の新スキンケア商品「WASO」(ワソウ)の「自然からくる美しさをストレートに伝える」というコンセプトを融合させて7月中旬からコラボ作品を展示している(イベントは10月9日まで。小学生以上は御船山楽園の入園料が必要)。企業として美を大切にする精神に革新的で拡散力のあるデジタルアートを結びつけて、新たな価値を消費者に提示するという取り組みだ。
こうした試みは、企業と消費者の「新しいコミュニケーション」の場をつくり上げるという点で意義がある。さらに企業マーケティングに地方創生や地方発という観点を含めること、企業、地域、消費者が一体となった活動として融合し、最終的に企業イメージや製品・サービスに対する理解が深まる効果をもたらしている。
近年、消費トレンドが「モノからコトへ」と意識されるようになり、消費者がモノを所有する目的だけでなく、体験や価値観の共有など「特別な時間」の過ごし方が重視されている。企業側が一方的に商品やサービスの良さをPRするのではなく、消費者にさまざまな体験の機会を提供し、それを企業側と共有することでエンゲージメント(関係性)を構築する。こうした発想は近年、企業のマーケティング戦略に欠かせない手法になりつつあるといえる。
一見企業PRとしては迂遠な取り組みにも見えるが、真のファンをつくるためには実はそれが一番の近道なのかもしれない。
(文=編集部)