新しい担当者の最初の登場は、いきなりアポなしで支店長と一緒に会社を訪れてきたときでした。そして開口一番、「少し前に株主が変わったという話でしたね。その株主と一緒に改めて来てください。個人保証を付けていただきますし、不動産などを持っていたら担保に入れたいです」と伝えてきたそうです。
当の知人は、その会社のデータ分析や経営助言など時間の拘束を伴わないことを条件にしており、常勤もしていなければ役職にもついておらず、形式上はただの株主で、所有と経営の分離を成り立たせていました。知人はその理屈をわかっているので、「そんなこと言ったら、東芝やシャープや日本航空の株主は、会社が揺れたときに個人保証を求められたのでしょうか?」など冗談を言っていましたが、事情がのみ込めない社員はしばらく「いったい何が起こるんだろうか? 会社は大丈夫なんだろうか?」と不安な日々が続いたそうです。
少し日が経ってから、銀行から「先日の話はなかったことで構いません」という連絡が来たそうですが、先に銀行が出してきた条件が満たされなかったことで、業績が回復途上にあるのにもかかわらず、「将来性と保証のバランス悪い」ということで貸しはがしにあうのではないかという不安は残ってしまっているそうです。
以上、体験もあって少し批判調に紹介してしまいましたが、一歩引いて冷静に見ると、銀行融資の金利は以前と比べると随分と安くなっているため、債権の保全を最優先させることは真っ当な判断にも思えます。
それでは銀行を諦めて、リスクを受け入れてくれる資金を集めようとすると、たとえばクラウドファンディングに挑戦すると、(返済義務はなくとも)手数料は15-20%前後かかり、かつ初めて話を聞くようないろいろな人に対してわかりやすいストーリーを示せないと成立しないため、ハードルは高いです。たとえばB to Bのビジネスでは伝えるのが難しいことが多々あります。
また、ノンバンクからの調達や優先株等による調達では、実質的な金利に相当する負担が2桁のパーセンテージになることもあり、銀行融資の金利と比べると調達コストは大きく上昇します。
ほどほどのリスクテイクと金利によって、目利き力やコンサルティング力を備えて資金を投融資してくれるプレーヤーが増えて活性化されたら、相応に引き合いはあるのではないかと思います。しかし、長きにわたる銀行の行動特性を変えることは簡単なことではありませんので、その役割を銀行が担うことを推進するのが適切かどうかはわかりません。ただ、そうしたニーズを心待ちにしている中小企業のイチ経営者の顔も持つ筆者としては、金融改革によって事業承継の機会が増えることを切に望んでいます。
(文=中沢光昭/経営コンサルタント)