商圏が拡大するネット通販の功罪
一方、ネット通販に対して、極めて楽観的な意見も多くありました。出店・維持コストの低さに加え、何より注目を浴びたのは商圏の広さでした。現実に存在するリアル店舗の場合、必ず地理的商圏の限界が存在します。しかし、ネット通販であれば、英語でサイトをつくり、クレジットカードの決済機能などを付与すれば、理論的には世界全体を商圏とすることができるわけです。
その半面、商圏が拡大することにより客だけではなく、当然のことながらコンペティター(商売敵)も増加します。たとえば、リアルの世界なら「福岡で一番安い」といったことで十分に繁盛するでしょうが、ネットの世界では極端なことを言えば、日本で一番安くないと競争力を持たなくなってしまうのです。
結果、ネット販売ではリアルの世界以上に低価格競争が激化し、大手のネット通販サイトなどによる寡占化の動きも目立っています。
しかし、こうした動向はネットによる新たな現象ではありません。たとえば、18世紀の産業革命でも同様の事態が生じました。蒸気機関による大量生産を実現するためには大量販売を行わなければならず、当時、多くの企業が積極的な市場拡大を試みました。これには、普及し始めていた鉄道が大きな役割を果たしています。
その結果、今までは分断していた小さな市場が大きな市場に統合され、客のみならず、コンペティターも増加し、激しい競争の結果、低価格化が進行し、生き残った企業は大型化するといった、ネット上の市場における現代の状況がすでに18世紀には生じていたわけです。
このような知識をしっかりと持っていた経営者は、2000年頃から拡大してきたネット上における競争にうまく対処できたのではないでしょうか。
あらためて、歴史を学ぶ重要性を感じる次第です。
(文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授)