世の中の変化に伴い、求められる能力も変化
しかし、国は「先行きが予想しづらいこれからの社会では、知識の量だけでなく、自ら問題を発見し、答えや新しい価値を生み出す力が重要になる」という考えから、こうした時代に役立つ力の育成を教育改革の柱としていて、受験生の「学力の3要素」について、多面的・総合的に評価する新テストを導入するということに関しての揺らぎはありません。
「学力の3要素」とは、(1) 知識・技能、(2)思考力・判断力・表現力、(3)主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度の3つ。特に、「知識・技能」だけでなく、大学入学段階で求められる「思考力・判断力・表現力」を中心に評価するという考え方が今回の大学入試改革のベースにあります。
これまで、一部の大学の入試が重箱の角をつつくような細かな知識が必要な問題が出題されたり、解答パターンを覚えれば解ける問題だったりして、受験生が暗記中心の勉強に時間を割かざるを得ない状況をつくっていると批判されてきました。つまり、大学入試ががんとなって、日本の教育が知識偏重に偏っているというわけです。
そこで、文部科学省は各大学の個別選抜についても、思考力・判断力・表現力をより必要とする長文の記述式や小論文、面接や討論など、試験の方法を多様化することや、教科学習の成績に限らず、高校時代の経験を評価する選抜を増やすように働きかけていて、その先駆けとして、平成28年度から東大が推薦入試を、京都大学が特色入試を始めています。
今回の大学入試制度の見直しは、センター入試の廃止で終わるわけではありません。変化が加速する時代に対応する能力を育成するために、日本の教育全体を変えていかなくてはいけないという危機感が文科省にもあるからです。教育改革の目玉として、大学入試制度にメスが入れられたことは、大きな意味があります。それは、川上の大学入試が変われば必然的に、川下の高校・中学そして小学校の教育も変わるからです。
次回以降は、今回の教育改革の狙いについて掘り下げていきます。
(文=中曽根陽子/教育ジャーナリスト)