そのためには、中長期の目線で、さまざまな観点から経営戦略などを議論し、企業に改革を求める環境が欠かせない。状況に応じて、企業に一部事業の分離や売却を提案するなど、より能動的な経営への関与が求められる。経営の深い部分にまで踏み込み、長期の視点で資金を投じることができるか、それによって利得を獲得できるかが、機関投資家の腕の見せ所であり、ガバナンスの強化のためにも欠かせない発想だろう。
重要なことは成長を目指すこと
ガバナンスを強化しても、不祥事は続くかもしれない。これをやれば不祥事が減少するという、特効薬のような対応策を見いだすことは困難だ。現実的な発想としては、ガバナンスの強化などを通して経営者と株主などのステークホルダーとのインタラクティブな議論を進め、成長を目指すことだろう。突き詰めていえば、国全体で企業の成長力を引き上げることが必要だ。
この問題は、バブル崩壊後のわが国の経済環境とともに考えるべきである。1990年代初頭のバブル崩壊後、わが国の企業の多くは、成長を重視することよりも守りを重視した。わかりやすく言えば、従来のビジネスを続けて現状を維持することで目先の収益を確保し、雇用を維持しようとした。それはバブルの崩壊を受けた、「羹に懲りてなますを吹く」というべきリスク回避的な心理の表れといえるだろう。
この結果、わが国の企業は環境の変化に適応する力を低下させたと考えられる。シャープなどをはじめとする電機メーカーの凋落はその一例だ。そのなかで、ときどきの生産計画などを維持するために、やむなくデータなどを改ざんし、その場をしのごうとする考えが常態化したのではないか。
今後、現状維持を重視する発想で競争に勝ち残ることは難しくなるだろう。中国を中心に自動車業界では内燃機関を搭載した車種ではなく、電気自動車の開発が重視され始めた。ネットワーク科学の進歩によって、小売店の淘汰も進んでいる。加えて、わが国では人口減少が進み、人手不足がさらに深刻化する恐れもある。
こうした環境の変化が進むなか、わが国は人工知能を用いて生産管理を行うなど、省人化を進めて生産性を高めなければならない。政府はイノベーション(創造的破壊)を生み出すと期待される理論の実用化、技術の応用を支援していかなければならないだろう。それが、今後の成長戦略の核を成すべきと考える。
(文=石室喬)