新型ヴェゼル、陶器のような質感とシンプルさに感嘆…ホンダデザインの方向転換は本物か?
2月18日、4月の正式発表・発売に先駆けて内外装が公開されたホンダの新型ヴェゼルが、結構な話題になっているんである。
ヒット作となった現行型は、日産自動車の初代ジュークが開拓したコンパクトSUV市場に送り込まれたオールニューモデル。極めて強い個性を放つジュークに対抗するべく、丸みを効かせたシルエットに大胆なキャラクターラインをボディサイドに走らせた。
その適度な「冒険」は、結果、ライバルよりも幅広い層にウケたわけである。当然、7年ぶりにモデルチェンジされる2代目はその初代を踏襲したスタイルになると予想され、実際雑誌のスクープ画像はどれも現行を強く意識したものだった。
ところが、先行サイトで公開された2代目に現行の面影はほとんどなく、その新しいスタイルに話題が集中、それも否定的な意見が少なくない状況なのだ。
たとえば、ボディ同色のグリルを含め現行型からかけ離れたスタイルに違和感を呈するストレートなもの。あるいは、新しい六角形のグリルがマツダ車に酷似しているなんて話もあって、これは自動車専門サイトで記事にもされている。
で、スタイルの「好き嫌い」は個人によるけれど、冷静にカーデザインの善し悪しとして見ると、そうした意見は少々短絡的にも思える。いや、僕自身はかなり上手いところに着地したと感じているのだ。
新型フィットのときにも書いたけれど、ホンダのデザインはここに来て大きく変わりつつある。以前は「エキサイティングHデザイン!!!」という随分なコンセプトの下、たとえば先代フィットのボディ側面の「切り欠き」ように、極めて表面的な造形に突き進んでいた。妙にシャープな顔つきもそのひとつだ。
それが、四輪R&Dセンターデザイン室のクリエイティブディレクターに現在の岩城慎氏が着任したあたりから、「シンプル」な方向に大きく舵を切ったように見える。いや、デザインに限った話ではなく、商品企画全体としての変化と言ったほうがいいかもしれない。
たとえば新しいN-WGN。もともと軽のNシリーズは、ユニクロのブランディングなどで知られる佐藤可士和氏のディレクションが徹底されていたとはいえ、「New Simple!」のコピーで登場したボディはそれまでにないクリーンな佇まいを見せた。
このN-WGNは「生活になじむデザイン」を標榜したけれど、その後の新型フィットも脱数字主義としての「心地よい体験」を開発テーマとし、「シンプルなデザインをもっと親しみやすく」と謳った。さらに、話題のEVである「Honda e」はまさにシンプルの極みである。
シンプル+個性+新しさを表現するのは難しい
そして新型のヴェゼルだ。実は、ここまでは軽やBセグといったコンパクトボディゆえシンプルな表現もできたけれど、Cセグ以上のボディでは? という疑問を持っていた。しかも、先のようにスクープ画像では「現行のまんま」だったので、やはりすべては変われないのかと。
けれども、公開された先行サイトでは「心地よさ」「風を感じる」「光をあびる」など、やはり同じ方向の言葉が並んでいた。そしてスタイルを見れば、例のスクープイラストはまったく異なっていたと。
シルエットはより自然なクーペスタイルとなり、前後を貫く明快なキャラクターラインによって水平基調を強調。ボディ同色のグリルはクルマ全体に陶器のような質感を与え、バンパー下部には派手なエアインテークも見られない。リアウインドウ後端に置かれたドアハンドルは、2ドアに見せる効果としては現行型以上だ。
スリーサイズなど詳細は未発表だが、Cセグ相当のボディでここまでシンプルにまとめ上げるとは想定外だった。単に要素を省いたのではなく、独自の雰囲気を醸し出しているのも驚きだ。こうなると、今後のラインナップにも期待がつながる。
僕は新型車のデザイナーにインタビューをする機会が多いのだけれど、カーデザインにとってある種のシンプルさが重要なのは、多くのデザイナーが理解しているものの、それが具現化される例は決して多くない。シンプルでありつつ個性や新しさを表現するのは、本当に難しいのである。
混迷を極めたとも言える近年のホンダデザインだけれど、ここに来ての方向転換は果たして本物なのか? 大きな変化にただ驚くのではなく、だからこそその中身についてしっかりと見極めたいと思うのである。
(文=すぎもと たかよし/サラリーマン自動車ライター)