環境が変われば人は生まれ変わる、かもしれない
「ある程度見極めれば」と条件を置いたのは、中小企業においては業績が悪い場合でも、その要因が人材不足であるケースが非常に多いためです。たとえば、営業力が量的にも質的にも不足している会社であれば、営業経験が多少なりともある人材が(少なくとも当初は)人件費負担なく合流すれば、収益向上による新しい展開ができる可能性は十分にあるでしょう。
「中小企業に送り込まれるくらいなら、高額の退職金をもらって辞めるに決まってるじゃないか」と思われるかもしれませんが、高齢になってからの再就職は以前より機会が増えましたが、一部の技能者やハイスペック人材を除けば、普通の会社員にとっては依然として厳しい状況です。
なので、まっさらな状態から職を探すよりも、目の前にある自分の力が生かせる可能性がある仕事にチャレンジすることは、1年後に失敗しても通常の退職金は払われるというセーフティネットがあれば、やってみようという気分になる人はいると思います。
崖っぷちだけれど全力を尽くせるかもしれない再チャレンジの機会、「君は必要ない」と言われた状況から「君が必要だ」と言われる環境を選ぶ人も、10人に1人くらいはいてもおかしくないと思います。そして、その気合があれば、結果を出せる可能性も十分あると思います。人間の能力の差はそこまでは大きくなく、環境によって変わりうるというのが筆者の感覚です。グループ運営の目線では、損失を覚悟した枠をあらかじめ設定し、それ以上は出さないと決めておけばリスクも限定できます。
今回は伊勢丹HDを例に挙げましたが、これから市況が変調した際など、特定の年齢層であっても人材が余っている大企業には、検討の余地がある手段だと思っております。
人材不足の問題が顕在化してきた今後の企業経営においては、人材のリテイン、採用や生産性向上が必須の課題であるのと同程度に、人材の再生も重要な課題となってくるはずです。その一つの考え方として、リーダー育成の機会と合わせて考えてみる価値があると思います。
(文=中沢光昭/経営コンサルタント)