神戸製鋼所は、かつて安倍晋三首相が勤めていたことで有名だ。首相は10月22日のテレビ東京の選挙特番で、神戸製鋼所で発覚したデータ改ざん問題に関して、「工場では品質を高めていくために、職場で皆、忙しいなかで智恵を出し合い、汗を流していた。それが日本のものづくりの強さだった」と会社員時代を振り返り、「誠実な責任感を取り戻してもらいたい」と語った。
首相は新入社員時代、加古川製鉄所の工程課厚板係に配属され溶鉱炉の現場を経験した。
6月23日、沖縄全国戦没者追悼式に出席した首相は帰路、“里帰り”した。神戸製鉄所を訪れ、川崎博也会長兼社長の出迎えを受け、石炭火力発電所と10月に休止になる高炉を視察した。阪神大震災から2カ月で再稼働にこぎつけ、「復興のシンボル」と呼ばれた施設である。高炉に使われているのと同じ耐火レンガに「神の鉄魂」と揮毫した。
首相は、休止する高炉と独立系発電事業者として国内最大級の発電量を誇る石炭火力発電所を視察。1期後輩の川崎氏にエールを送った。
川崎氏は京都大学大学院工学研究科修士課程機械工学専攻修了。鉄鋼部門一筋で加古川製鉄所の副所長を務めるなど、ものづくりの現場を歩き13年4月に社長に就任した。その経歴から神鋼の本流のようにみえるが、そうではない。神鋼はメーカーでありながら、ものづくり出身者はトップになれなかった。
安倍首相の社会人の原点
安倍首相は、「私の社会人としての原点」と語るなど神鋼への思い入れが強い。6月23日付時事通信「首相動静」によると、首相は沖縄の平和祈念公園で開かれた沖縄全戦没者追悼式に出席した後、全日空766便で那覇空港を出発した。
「午後4時40分、伊丹空港着。同48分、同空港発。
午後5時23分、神戸市灘区の神戸製鋼所の神戸製鉄所・石炭火力発電所着。視察。川崎博也神戸製鋼所会長兼社長、西村康稔自民党総裁特別補佐同行。
午後6時45分、同所発。
午後7時5分、同区のKOBELCO摩耶ゲストハウス着。川崎神戸製鋼所会長兼社長、西村自民党総裁特別補佐、久元喜造神戸市長と会食。同9時10分、同所発。同35分、神戸市中央区の神戸ピアホテル着」
神戸製鋼のデータ改ざん問題が発覚してから、安倍首相の過去の発言がインターネット上で物議を醸した。
16年3月30日に放送された自民党ネット番組で安倍首相は新社会人に対して「失敗すれば落ち込むが、くよくよせず、糧にする気持ちが大切だ」とエールを送っていたからだ。
同番組で神戸製鋼所の新入社員時代、数値の入力ミスで長さの足りないパイプを大量に製造してしまったエピソードを披露。「クビになるかと思ったが事なきを得た。多少の失敗にめけず、皆さんにがんばってもらいたい」と語った。
その後、ネット上には安倍首相の発言を揶揄する書き込みが相次いだ。
安倍首相は1979年4月、父親・安倍晋太郎氏(外務大臣などを歴任)のコネで神戸製鋼に入社。
1年間はニューヨークに勤務。帰国後、神戸製鋼所加古川製鉄所の工程課厚板係に配属され、溶鉱炉の現場を経験した。数値の入力ミスをしたのは、そのときだ。82年11月、神鋼を退社。政界に転じる。