岐阜市内で「さかい珈琲本店」を運営するJ・ARTの取締役開発本部長の河合直樹氏は、こう説明する。
「岐阜の人は、喫茶店を『自宅の居間』感覚で使います。それほど身近な存在で、平日のモーニングタイムは、年配者が思い思いの時間を過ごすことも多い。ファミリー客は、週末に家族でモーニングを食べに来られます。朝に喫茶店でモーニングを食べてから、それぞれの予定に出かけるのです。私もそんな喫茶文化で育ちました」(同)
このように、一家で過ごす時間が「夜」ではなく「朝」なのだという。
コメダに学び、「こだわり」で差別化
さかい珈琲は現在13店と、店舗数は多くないが、東は千葉市から西は広島市まで幅広く展開する。創業者は、現J・ART会長の坂井哲史氏だ。実は競合店の「元町珈琲」も同氏が創業しており、かつて勢いがあった「焼肉屋さかい」も同氏のアイデアだった。
「元町珈琲は、日本のコーヒー文化の象徴である『港・元町』をイメージしました。当時はフードメニューに力を入れませんでしたが、さかい珈琲ではフードを重視しています。そのひとつ、パンケーキは試行錯誤の末に完成しました。最初はトッピングで決まると思いましたが、現在は生地こそが大切だと考えています。メレンゲと生地を合わせて焼くため、ご注文から提供までに20~30分かかりますが、女性客のランチ需要としても好評です」(坂井氏)
岐阜市の郊外型喫茶店の多くは、コメダの影響を受けてきた。さかい珈琲もそのひとつで、座席数の多さと広い駐車場が特徴だ。コメダとの差別化も“喫茶文化”を生んだ。さかい珈琲本店の庭は、造園家が手がけるなど「落ち着き」「永続性」「本物」にこだわる。
「フードメニューから考えると、喫茶店には3つのタイプがあります。フードはほとんど手がけない店、一定のフードを置く店、フルメニューのフードを置く店の3つです。家族客も多く、客層が多様な郊外型店は、コーヒーだけでは差別化ができません。そこで、さかい珈琲はランチも楽しめるようにフードメニューを充実させたのです。当社は『ステーキ屋 暖手』という店も東京都と愛知県で展開しており、その運営ノウハウも生きています」(同)
たとえば「ココット」メニューも、さかい珈琲のウリだ。デミグラスハンバーグのシチュー仕立てや、骨付き若鶏のコンフィを欧風カレー仕立てにして提供する。喫茶店というよりもレストランに近い。仕込みに手はかかるが、注文後は早く提供できるという。
「多くの喫茶店は、モーニングの時間帯はお客さんが入りますが、ランチや夜が強くありません。しかし、おいしいフードを充実させれば、昼食需要や夕食需要にも対応できるのです」(同)