「自家焙煎」にこだわる個人店
1978年から岐阜市玉宮町に店を構えるのが、個人店「カフェカルトン」だ。座席数は20席、店舗面積十数坪の小さな店で、自家焙煎珈琲がウリだ。インターネット「飲食店評価サイト」での数字も高い。店主の足立義竹氏は県内の関市出身で、静岡県でサラリーマン生活を送った後、脱サラして店を開いた。コーヒーへの探求心旺盛で、独自に技術を高めてきた。
「開業前に3キロ釜の国産焙煎機を購入して、『焙煎の道を究める』と腹をくくりました。この場所を選んだのは、静岡時代に修業した店に立地が似ていたからです。当時は岐阜の主要産業だった繊維業も元気で、周囲は旅館が多かった場所です。今はかなり旅館が廃業し、代わりに居酒屋が多い場所になりました」(同)
足立は、いわば「昭和時代の喫茶店マスター」だ。職人気質を持ちながらも人当たりはソフト。それもあって、店の人気が続いたのだろう。世界的なコーヒー品評会である「カップ・オブ・エクセレンス」で入賞した豆を販売するなど、取り扱う豆は幅広い。筆者は取材後にコーヒー豆も買って事務所で淹れて飲んでみたが、味わい深いものだった。
かつて自家製だったケーキなどのスイーツ類は、現在は市内の人気スイーツ店「ル・スリジェ・ダムール」から仕入れる。フードはトースト類に絞り、あくまでもコーヒーの味で勝負する。興味深いのは、こだわりのコーヒーを400円程度に抑え、ケーキ(大半が300円台)とセットで注文すると、さらに50円引きになることだ。
「当店には観光客も来られますが、頻繁にお越しいただく地元常連客が多い店です。あまり高い値段をつけると支持されないので、細く長くやってきました」(同)
このあたりは、岐阜市民の“消費者心理”に対応した結果といえそうだ。
「モーニングの中身」には厳しい
実は、岐阜市民の一部は、コメダにも厳しい目を向ける。店員に「モーニング内容が大したことない」と話すお客もいるという。コメダのモーニングは厚切りトースト半分と、ゆで卵といったシンプルな内容だ。無料でも、当地の豪華な内容を知るお客には物足りないのだろう。
興味深いのは、岐阜市に近い愛知県一宮市の来店客の中にも、同じ感想を持つ人がいることだ。筆者は以前、一宮市の街おこし「モーニング博覧会」(モー博)の1部門として、当時あった「モー1グランプリ」(モーニングメニューの内容を競う)優勝店を視察し、自慢のモーニングを注文したこともある。量は控えめだが、豪華な内容だった。
また、前述した繊維業は一宮市でも盛んだったが、今では衰退してしまった。「モーニング好きな街」と「衰退産業を持つ街」という関係が、喫茶店利用者の目を厳しくするのか。
民間が主導した活動に連携した市が、2012年に「岐阜市の『珈琲・喫茶店』文化を活かした地域振興活動を行う団体等の登録」という取り組みも始めた。だが、5年を経ても目立った活動実績がない。「喫茶文化の振興では、市内最大の繁華街・柳ケ瀬地区の動きも鈍かった」(地元関係者)という声も聞こえる。こうした活動が尻すぼみに終わってはもったいない。前述の一宮市は「モー博」が11年目となった。「喫茶代日本一」を奪還した、岐阜市の今後の取り組みも注視していきたい。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)