「グレーな部分が多い」といわれる中古車業界。実際には存在しない商品を宣伝する「おとり広告」で来店を誘い、別のクルマを買わせるといった手法が過去に横行していた。
そんな状況に危機感を抱いた中古車情報メディア「カーセンサー」(リクルートホールディングス)は、業績への悪影響もいとわず業界の健全化に取り組んだ。
しかし、改革にあたっては販売店から反発の声もあったという。中古車業界の何が問題で、どこにメスを入れたのか。「カーセンサー」のブランドマネジャーである中村与希氏(リクルートマーケティングパートナーズ)に話を聞いた。
中古車業界は消費者側が圧倒的に不利?
――価格なども含めて、中古車業界に対しては「グレーが多い」という批判があります。
中村与希氏(以下、中村) そうした側面があったことは否めません。中古車はクルマの状態や走行距離などの細かい条件が違ってくるため同じクルマはなく、価格構造がわかりにくくなっています。
クルマというのは、人生のなかで何度も買うようなものでありません。そのため、必ずしも買い手が相場や周辺知識に精通しているわけではありません。このクルマはなぜこの価格なのか、実際の価値はどのくらいなのか……それほど情報を持っているわけではないのです。
一方、売る側は長年クルマに携わっているため、価格設定なども含めて買う側より多くの情報を有しています。しかし、その優位性を悪用するケースもありました。いわゆる「おとり広告」で、消費者を販売店に誘導するために実際には存在しないクルマを広告に掲載するというものです。
この10年、「カーセンサー」はカスタマーが安心・安全に中古車を購入できるように、さまざまな改革を実施してきました。「おとり広告の排除」「総額表示の推奨」をはじめ、カスタマーの判断基準となる「カーセンサー認定」、購入後も安心できる「カーセンサーアフター保証」。この4つの施策に力を入れることで、中古車業界の透明性確保に努めています。
“存在しないクルマ”を載せる「おとり広告」
――不動産業界とも共通していますが、「おとり広告」については「商習慣として根付いていたのでは」という指摘もあります。
中村 「おとり広告」は過去に存在していました。極端な例ですが、「100万円でポルシェが買えます」という広告があったとしましょう。カスタマーは、その広告を見て「安い」と感じ、販売店に問い合わせをし、来店します。しかし、販売店は「そのポルシェは売れてしまいました。でも別のポルシェなら、値段は高いですが性能が良いものがありますよ」と言って別の車の購入を促します。
中古車業界に、このような「おとり広告」を使って来店を誘う仕掛けが横行していたことは事実です。以前は、“存在しないクルマ”の広告もありました。そのため、カスタマーからは「実際にお店に行ったら、『そのクルマはない』と言われた」「カーセンサーには、すでに在庫がないクルマも掲載されているのか」との声がありました。
そこで当時、「カーセンサー」は「業績が下がったとしても、おとり広告を排除しよう」と決断。2004年に「カーセンサートラスト」という取り組みをはじめ、「おとり広告」を3か月で排除することができました。