“第2、第3のはれのひ”が出る可能性も
結局、支払ったお金も、着るはずだった振り袖も、そして素敵になるはずだった成人の日の思い出も、何ひとつ戻ってこないというのが現実だ。しかし、業界全体の商取引の状況を鑑みると、“第2、第3のはれのひ”が出てきてもおかしくない状況といえる。その点、渡邊弁護士はどう見ているのか。
「一番の問題点は、代金と商品・サービスの交換が同時期に行われない取引に全額を支払ってしまったところです。一定の手付金を払って残りは商品・サービスと交換、というのが一般的でしょう。それ以外は、どんな誘い文句があったとしても、信用できる契約相手であるかどうか、まずは疑ってかかるべきです。それを、今回の教訓としてほしいと思います」(同)
そして、契約書もしっかり見ることが必要であり、その場で簡単にサインや判を押さないということを肝に銘じるべきだ。
「債務不履行に関して消費者側の権利の救済の方法が書かれているのか、電話や訪問販売での取引などではクーリングオフの記載があるか。それだけでも確認するべきです。事前に代金を全額支払ってしまうことで、消費者は商品を取得できないリスクを背負ってしまいます。今回も、手付けシステムであれば被害額はもう少し減っていたはず。だます方が絶対に悪いのですが、ちょっと気をつければだまされないで済むこともあるのです」(同)
来年の成人式を前に途方に暮れているBさんは、次のように心境を語った。
「正直、私は来年なので『よかった』と心の底でちょっと思っています。でも、被害に遭ったのは同じ。すでにお金を払ってしまっているのに、それでも親は『何とかする』と言ってくれています。でも、かなりこだわって着物を選んだので、同じお金を払っても、あの満足感はもう得られない。それに、またお金を払わせるのも心が痛い。どうしたらいいのか、今悩んでいます」(Bさん)
19歳の大学1年生をこんな状況に追い込んだという事実も、はれのひの大きな罪だ。たとえ裁判で裁かれなかったとしても、問題が放置されることがないように、この事件を語り継いでいきたい。
(文=石丸かずみ/ノンフィクションライター)