このため社長の命令に対して、部長クラスは社長命令に従うものの、課長クラスでは別の動きをすることもある。つまり自分の直接の長(小集団の長)よりも組織の中では上位にある人の命令では動かないこともしばしばあるのです。結果として、長年にわたり多くの部署で不正が放置される事態が起きる可能性があります。
経営戦略論では、創発的な組織として現場が強いことは日本企業の強さの秘訣ともいわれましたが、それは現場の判断を経営トップにフィードバックして全社の経営戦略として実施するプロセスがあることが前提です。
激動する企業環境下において、そうしたプロセスがないまま現場が勝手に動きだすと方向性がバラバラになる危険性もはらんでいます。
不祥事や隠蔽の原因
近年日本でも終身雇用がほぼ崩れつつあり、非正規雇用が4割にも達するようになってきたため、同じ会社内でも正社員はウチ、非正規雇用はヨソというあらたな境界線ができているのではないかと私は危惧しています。
日本企業に転職をした方が痛烈に疎外感を感じることは多いです。日本企業ではまだまだ転職者のほうが少ないので、もともといた社員はウチ、転職してきた者はソトという構図は少なからずあると思います。米系の外資系企業の友人に聞くと、ほとんど全員が転職組なのでまったくそういう疎外感はないと話していました。
さらに中根氏は、日本の組織はタテの構造であり、他の組織とのヨコの交流はほとんどせず、「日本人はみな平等」だという価値観が根底にあるため長く組織にいる年上が評価される。そのことが年功序列制度が長年続いてきた背景だと指摘しています。
このような理論に基づいて現状の日本を考察してみると、日本の企業組織も徐々に変わりつつあるが、依然として「常に自分の周りの他人の反応を気にして行動する村社会」のままでいることが、不祥事や隠蔽の原因になっているのではないかと思います。
企業風土の変革
では今後、日本企業はどのように変わればよいのでしょうか。ひとつは経営陣の総辞職、もうひとつは企業風土の変革だと思います。
企業風土は長年にわたって培われてきたもので、経営陣の一掃など相当にドラスティックな変革をしない限り変わることはできません。記憶に新しいところでは、13年に女子柔道の国際試合強化選手への指導陣による慢性的な暴力行為やパワーハラスメントの問題が起きましたが、全日本柔道連盟(全柔連)の理事は総辞職しました。その後の柔道界の復活は誰もが認めるところでしょう。
もうひとつは、今の10~20代は幼い頃からすでに携帯電話に慣れ親しみ、LINEやInstagram、Facebookなどのソーシャルメディアを使いこなしており、会社に入る前にすでにヨコのネットワークを構築することに長けています。
企業はこうした世代が入社後も外部の人間とのネットワークを自由に構築できる自由さと、社内では多様な価値観を持った人々がお互いの意見を言える企業風土につくり変えることが重要ではないかと思います。18年は再び日本企業がイノべーションの生まれる競争優位性を持つ組織に飛翔する変革の年になることを期待しています。
(文=平野敦士カール/株式会社ネットストラテジー代表取締役社長)