国税の敗北
重加算税を課すには、納税者の行為に仮装か隠ぺいがないといけません。では、どんな行為が仮装や隠ぺいに該当するのでしょうか。ここで、重加算税の基準を確認します。
【重加算税の基準】(抜粋)
(1)いわゆる二重帳簿を作成していること。
(2)帳簿、決算書類、契約書、請求書、領収書を、破棄又は隠匿していること。帳簿書類の改ざん、偽造、虚偽記載、相手方との通謀による虚偽若しくは架空の契約書、請求書、領収書の作成又は帳簿書類の意図的な集計違算により仮装を行っていること。取引先に虚偽の帳簿書類を作成させる等していること。
(3)本人以外の名義又は架空名義で行っていること。
(4)調査の際の具体的事実についての質問に対し、虚偽の答弁等を行い、事実関係を総合的に判断して、申告時における隠ぺい又は仮装が合理的に推認できること。
これらのどれかに該当すればいいわけですが、今回のAさんの場合も、メモ書きの廃棄や収入・経費の金額を改ざんしているということで、調査官は重加算税を課しました。確定申告書に記載された納付すべき税額は、いずれもメモの○○○円を下回る金額となっていて、所得税の納税額を試算して、自己資金との兼ね合いを考慮し、納税額を調整したと考えられます。不正があり、不正の意図もあったわけです。
そこで、「正当な売上金を把握できたにもかかわらず、恣意的に操作して算出した売上により所得税の収支内訳書を作成したことは、隠ぺい又は仮装に当たる」として、重加算税が課されたのですが、Aさんはこの処分を不服として申し立てを行いました。
申し立てを受けた国税不服審判所は、これは珍しいことなのですが「重加算税を取り消すべきである」と決定したのです。理由としては、「Aさんが捨てたメモは、確定申告のために作成したものとはいえない。根拠のない売上や経費は過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動に当たらない」などと、重加算税の基準を満たしていないと判断したのです。
調査によって課された重加算税が覆ることは、ほとんどありません。そもそも、納得して修正申告をして、重加算税を課されるからです。今回の事例は、珍しく国税側が敗北した例といえるでしょう。
(文=さんきゅう倉田/元国税職員、お笑い芸人)