また、アイカーン氏は2月14日、日本経済新聞の電話インタビューで「ひどいディール(取引)」と批判した。「ゼロックスの取締役会は、私がこれまで見てきたもので本当に最悪のひとつだ」「委任状争奪戦も辞さない」と富士フイルムHDの古森会長にブラフをかけた。「古森氏は私の電話番号を知っているはずだ。私にいつでも電話できる」とも述べている。
ディーソン氏は「透明な入札手続きを経るべきだ」と主張し、「他人のふんどしで相撲を取るな。買収するなら身銭を切れ」と迫っている。
助野健児富士フイルムHD社長が、富士フイルム側から現金を流出させない買収スキームを「クリエーティブ」(独創的)と自画自賛したのが完全に裏目に出た恰好だ。
今後、ゼロックスの株主がどう動くかが焦点となる。アイカーン氏とディーソン氏の保有するゼロックス株の合計は、優先株を含めて発行済み株式の13%に上る。米国では一般的に企業合併などの議案の可決には、株主の過半(日本では3分の2)の賛成が必要とされている。
ゼロックス株を9.7%持つインデックス投資家の米バンガード・グループ、4.3%を保有する投資ファンドのブラックロック、3.5%を保有するステート・ストリートなど、上位の株主がアイカーン氏の支持に回り買収に反対すれば、合併の議案が否決されることもあり得る。
アイカーン氏は過去に、ブリヂストンによる米タイヤ販売会社の買収計画を吹き飛ばしたことがある。2015年12月29日、ブリヂストンはアイカーン氏と競っていた米タイヤ販売大手、ペップ・ボーイズの買収で敗北した。買収価格の引き上げ合戦で、当初の想定より費用が膨らみ、買収を断念した。ブリヂストンは主力の米国市場での販売網拡大の練り直しを迫られた。
このほかアイカーン氏は、テキサコ(現シェブロン)、TWA(現アメリカン航空)、食品のナビスコ・グループ、メディアのタイムワーナー、通信機器のモトローラー、インターネットのヤフーなど有名企業と渡り合い、「経営参加のチャンスを狙い、できなければ株価を引き上げて高値で売り渡す」(企業の合併に詳しい国際アナリスト)ことで赫々たる戦果を挙げている。アップルとの攻防戦でアイカーン氏は数十億ドル分のアップル株を買い集め、ティム・クックCEOが一定程度、アイカーン氏の要求を飲んだことでも知られる。そのため、“アップルに勝った男”といえる。