買収を成功させるためには、富士フイルムHDのドンはなんらかの手を打たなければならない。アイカーン氏と直接話し合うのか、TOBを実施するのか。いずれにしても、「タダ同様のスキーム」がそのまま通る可能性は低い。買収コストは膨らむことになるが、「筋金入りのアクティビストとのガチの勝負は避けたほうがいい」(前出国際アナリスト)だろう。
買収の先行きを懸念して、富士フイルムHDの株価は上値の重い動きが続いている。
富士フイルムHD、ゼロックスの買収は凶と出るのか
富士ゼロックスが手掛ける複合機やプリンターなどの事業部門は、富士フイルムHDの大黒柱である。稼ぎ頭は、富士ゼロックスが大部分を占めるドキュメント事業だった。
富士フイルム側の“お家事情”を見ておこう。
ゼロックスの買収には大きなリスクが伴う。富士フイルムHDとゼロックスの16年度の売り上げは、単純合算すると3.3兆円に達する。そのうちコピー機や複合機など印刷機の販売が3分の2を占める。新興国市場では需要は伸びているが、先進国ではペーパーレス化が進み、ゼロックスが得意とする保守などサービス事業が伸び悩んできた。業績低迷が続くゼロックスを子会社にするというリスクに直面することになるからだ。
新生ゼロックスの会長には古森氏が就任するが、CEOは現ゼロックスCEOのジェフ・ジェイコブソン氏が続投する。アイカーン氏が「守旧派」と指弾したジェイコブソン氏が留任するリスクを、富士フイルム側は把握できているのだろうか。
古森氏は、主力の写真フィルムの急減という危機に際して、液晶ディスプレー材料や医薬品などにシフトする構造改革を断行し、成功を収めてきた。これは、複写機・複合機への依存から脱却する戦略だった。しかし、ゼロックスの買収によって複合機の比重が3分の2に高まってしまう。成長路線とは真逆の選択ともいえ、今後の足枷になる可能性がある。
古森氏は1月31日の記者会見で、ゼロックスの買収により「(会長兼CEOの)任期は、また少し伸びそうだ」と長期政権を示唆し、「統合の要にならないといけない」と自身の役割を語った。2月1日付日本経済新聞のインタビューでは「あと3~4年だろう。80歳ぐらいで譲ろうと思っていたが、もう少しやらないといけない」と述べている。現在78歳の古森氏は、82歳ごろまで続投する腹づもりだ。
「超高齢経営者と物言う株主の闘いは、最後は体力が物をいう」と指摘するアナリストもいる。
(文=編集部)