伊藤常務を社長に昇格させる阻害要因だったイトーヨーカ堂の業績についても、鈴木氏が一線を退いて以降、不採算店舗の閉鎖や経費の圧縮で改善している。
イトーヨーカ堂の18年2月期は当期損益で58億円の損失だが、営業損益は16年2月期の約139億円の営業赤字から黒字転換、18年2月期は30億円の黒字を計上するまでになっており、見かけ上は回復傾向をたどっている。
来年や再来年にも交代があって不思議ではないし、前出の食品メーカーの幹部も「井阪社長は必ず創業家にバトンを返すはずだ」と断言する。しかし、伊藤常務の手腕については、まだ評価が定まっていない。
というのも鈴木氏が社長、会長時代に伊藤常務はセブン&アイHDの取締役にはなっていたが、企業の社会的責任(CSR)を統括するといった、それほど重要ではないポジションに追いやられていたし、現在の経営推進本部長というポジションに就いたのは今年3月になってからだ。
セブン&アイHDでは、カリスマの鈴木氏が去って以降、集団指導体制的な指揮命令系統に変わっているようにもみえる。そのため、もちろん伊藤常務が社長に就任したとしても井阪氏や、副社長の後藤氏が伊藤氏を支える体制を構築していくはずである。
しかし、イトーヨーカ堂が黒字転換したといっても、まだ完全回復には程遠い状態。そもそも、セブン&アイHDとして苦戦するGMSの確実な収益体質改善の方向性を明確には打ち出せていない。
加えて百貨店であるそごう・西武もGMSの陰に隠れて目立たなくなっているが、店舗閉鎖や譲渡など事業構造改革費用がかさんでおり、18年2月期も前期に続いて300億円近い当期赤字を計上しているのだ。
百貨店もGMSも決定的な改善策が見つからないなかで、引き続きコンビニ事業の一本足打法が続く。ある程度、GMSや百貨店事業の回復を確かなものにして創業家にバトンを渡すシナリオに見えなくもないが、まずコンビニ事業以外の業態をどうするのか。再生するのか、切り離すのか、その道筋をつけ、新たなグループ像を模索することが先決だろう。
(文=編集部)