楽天は自社の通信網を整備することで、店舗で行われてきた消費などを、従来以上にネットに取り込みたい。インフラの運営コストを抑えることでユーザーの満足度も引き上げたい。そのために、新規に携帯電話事業に参入し、日本全国津々浦々にネットワークテクノロジーの便益を浸透させようとしている。
求められる成長へのビッグピクチャー
楽天の携帯電話事業への参入は、自社独自のネットワークを整備し、その競争力を高めることを目指している。それが実現すれば、社会には相応のインパクトがあるだろう。地方に行くと、人口の減少やコストカットのために銀行の支店が閉鎖される地域が増えている。銀行はネット上でのサービスを拡充して顧客満足度を維持しようとしているが、想定通りの効果が出るかはわからない。
その理由は、銀行のビジネスモデルは、預金を集め、貸し出しを行うことを中心とする金融仲介機能をベースとしているからだ。一方、楽天には銀行などの金融ビジネスも、EC事業もある。ビジネスの範囲が広いということだ。その分、楽天にはECと金融を中心に、ユーザーの満足度を高め、付加価値を創出する発展性がある。それを突き詰め、将来のビジネス像を提示することが重要だ。それは、成長戦略の策定にほかならない。
現在の楽天の経営を見ていると、C2Cビジネス(Consumer to Consumer、消費者と消費者の取引)、ウォルマートとの提携など、さまざまな取り組みが進んでいる。それがどのようにシナジーを発揮していくか、あるいは、個々のプロジェクトの背景にどういった共通点があるかがわかりづらい。その分、市場参加者は目先の投資規模や事業推進上のリスクに目が向かいがちになっている可能性がある。
言い換えれば、楽天は中長期的な視点で、成長へのビッグピクチャー(骨子)を示すべきだ。それによって、どのようにして個々の事業が携帯電話事業への参入とシンクロナイズし、収益を生み出せるか、イメージが持ちやすくなるだろう。同時に、ビッグピクチャーを考えることによって、同社の経営戦略をよりシンプルかつ持続的なものに引き上げることもできるだろう。それは、選択と集中を進め、経営資源の効果的な配分を行うためにも欠かせないと考えられる。そうした取り組みが進めば、市場参加者からの評価も従来とは異なったものになるだろう。それができるか否かが、一段の成長には欠かせない。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)