“周回遅れ”のデジタル化
人員のリストラの遅れに加え、デジタル化の遅れも深刻だ。同社は今頃になってデジタル化を強く推し進めると言いだしたが、遅きに失した感が否めない。
杉江社長は昨年11月7日の18年3月期中間決算発表で「小売業のままでは生きていけない。IT企業に変わっていかなければ競争に勝てない」と述べ、デジタル化への決意を表明した。
具体的なデジタル化策として、カード会員の顧客情報や店頭で収集した顧客情報、販売員が持っている上客の顧客情報などを一元管理し、顧客の特性に応じた広告の配信や商品・イベントの紹介、さらには取引先の在庫状況を確認できるようにするなどの取り組みを行っていくという。
また、杉江社長は5月9日の18年3月期決算発表で「我々が持っている商品がデジタル上で登録されていない。来てもいただけない状態だ。そういう意味で、今、デジタル商品登録を開始している」と述べ、同社の商品を顧客がインターネット上で検索できるようにしているという。
4月には、ようやくスマホアプリをリリースした。店内の案内やおすすめ情報を発信していくという。
周回遅れもいいところだろう。多くの小売企業では当たり前にやっていることを、三越伊勢丹はこれから行っていくというのだから驚きを禁じ得ない。驕りのツケが回ってきてようやく重い腰を上げたわけだが、あまりにものんきすぎないか。
期待できそうなところとしては、デジタルを活用した新規事業がある。現時点で内容は明かせないとしながらも、7つほどの案件があるという。外部知見を活用し、必要があればM&A(合併・買収)や業務提携を行うことも視野に入れているようだ。ただ、明らかでない部分が大きいため、現時点では成長の計算に組み込むことはできないだろう。
デジタル化に加え、主力の百貨店事業の活性化も急務だ。同社は21年3月期までに伊勢丹新宿本店や日本橋三越本店に200億円以上を投資して改装することを表明し、活性化を進める方針を示している。ただ、その効果が出るのは先の話だ。
改装といった中長期的な収益改善策は、もちろんやらなければならない重要施策ではあるが、短期的にわかりやすいかたちで結果が出る施策も同時に必要だろう。近い将来に希望が持てなければ、遠い将来にも希望を持つことができないからだ。そういう意味で、百貨店事業の不透明さも深刻な状況といえるだろう。
18年3月期の決算発表は、同社に対して多くの人が抱く不安感を十分に払拭するには至らないものとなった。さらなる構造改革や抜本的なテコ入れ策が必要といえるだろう。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)
●佐藤昌司 店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。セミナー講師。店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。