テレビ朝日の女性記者に対する財務省の福田淳一前事務次官の「セクハラ問題」が、波紋を広げている。ある主要官庁の幹部は、「あの事件以降、幹部はもとより、職員に至るまで、女性記者と2人きりでの取材は受けないようにしている」と証言する。福田前次官の事件は、官庁の職員に対して強烈なインパクトを与えたようで、多くの官庁が同様の対策を取っているようだ。
ある財務省幹部は、「“李下に冠を正さず”だ。疑われるような行動を控えるようにする以外、セクハラ批判をかわす方法はない」と指摘する。
「そもそも国家公務員は、国家公務員法や秘密保持法で機密漏洩に関して厳しい規定が設けられている。記者の取材に対してスクープとなるような話をするのは、その記者とよほどの信頼関係が必要になる」(別の官庁幹部)
当然、多くの人の目がある庁舎のなかで、そんな機密事項を話すわけにはいかない。となれば、こうした話は当然、庁舎外の2人きりの場所で行われることになる。意外にも、女性記者から今回の問題を迷惑がる声も聞こえる。
「やっと2人きりで外で取材ができるまでに関係を構築したのに、あの問題以降、一切、外での取材ができなくなった」(大手紙の女性記者)
「マスコミというのは、今でも男社会。今回の問題で女性記者は、男性記者の補助という立場に逆戻りした」(別の女性記者)
一方の男性記者は概して、この問題に対して関心が薄いように感じるが、ある大手紙の男性記者はこんな考えを漏らす。
「男はみんな助平。それは、役所だろうが企業だろうが変わらない。そこに付け込んで、女であることを使って取材する女性記者もいるのは事実。確かに、マスコミはいまだに男社会かもしれないが、女性という武器がない分、男性記者にはハンデがあった。これが、同じ土俵に乗ったということだろう」
もちろん、こうした意見はかなり極端なものだが、一部の男性記者のなかには、こうした考えを持つ者もいるようだ。
企業で広まるセクハラ防止のためのルール
さらにこの問題は、企業にも飛び火した。ある製造業の役員は、「会社として女性記者と2人きりでの取材は受けないように、というルールが決まった。現在では、女性記者の取材は基本的に控えている」と話す。このルールは役員だけを対象にしたものではなく、中間管理職に対しても適用されているという。
このほかにも、新たな規則を設ける企業は多い。
「部内であっても、男性上司と女性部下が2人きりで飲みに行ったりする行為が禁止された」(サービス業大手の管理職)
「飲み会は基本的に正式な部内飲み会としてしかできなくなった。その上、2次会も基本的には禁止されている。2次会で羽目を外して女性社員にセクハラ行為を行わないようにという理由のようだ」(別のサービス業部長)
一方では、「特に女性部下とのコミュニケーションが取りづらくなった。社内ではできないようなプライベートな相談を受けるのが難しくなるのではないか」(大手金融機関部長)という声も聞かれる。
福田前次官のセクハラ問題をきっかけに、官庁や企業の多くは、これまで以上にセクハラ防止に向けた対策を強化している。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)