名称が奈良学園大学になったのは14年4月。名称が変わる直前はビジネス学部と情報学部を有していたが、法人は名称変更に合わせてこの2つの学部を「現代社会学部」に改編することと、「人間教育学部」と「保健医療学部」の新設を13年に文部科学省に申請した。
しかし、新設する2学部は設置が認可されたが、「現代社会学部」は要件を満たしていないとして文部科学省から同年8月に「警告」を受けた。すると、法人は申請をやり直すのではなく、すぐさま申請を取り下げてしまった。
「現代社会学部」を申請する時点では、再編が成立しない時にはビジネス学部と情報学部に戻して募集を継続することを、教授会だけでなく、理事会も大学評議会も決議していた。申請を取り下げても、既存の2学部は存続するはずだった。
ところがこの年の11月、法人は突然、教員向けの説明会を開催。ビジネス学部と情報学部の廃止を告げるとともに、教員約40人に対し転退職を迫ったのだ。
法人側は「警備員なら雇う」
川本さんは、法人側の説明に唖然とした。2学部を廃止することも、自分たちがリストラされることも、まったく想像していなかったからだ。
法人側が説明した解雇の理由は「過員」。新設の2学部のために、すでに約40人の教員を新規に採用していたので、教員が多すぎるというのだ。しかし既存の2学部を廃止するのは法人側の一方的な決定であり、教員にとって「過員」という理由は納得できるものではなかった。さらに、この説明会で法人側が言い放った言葉に川本さんは驚いた。
「法人側は私たちに、警備員なら雇用継続が可能だと言いました。この発言には耳を疑いました。既存の学部を残すという決定があったにもかかわらずリストラをするのは、道義的にも許されることではありませんし、教育機関とは思えない行為です」
大学を運営する学校法人奈良学園は、幼稚園から大学まで10の学校を運営し、約200億円を超える流動資産を保有。ここ10年間で300億円以上の設備投資もしている。経営難を理由としない大量リストラは異例だ。
このリストラを止めようと、川本さんらは教職員組合を結成して、奈良県労働委員会にあっせんを申請。16年7月には、奈良県労働委員会から「互いの主張を真摯に受け止め、早期に問題解決が図られるよう努力する」ことと、「労使双方は組合員の雇用継続・転退職等の具体的な処遇について、誠実に協議する」とのあっせん案が示された。労使双方がこのあっせんに合意し、団体交渉を進めるはずだった。