加えて、ケニアでは携帯電話を用いた金融サービスが爆発的に普及した。それが“M-Pesa(エム・ペサ)”だ。MはモバイルのMであり、Pesaはスワヒリ語でお金を意味する。M-Pesaはそれまで銀行口座を持たなかった人に銀行サービスへのアクセスを提供した。それだけではない。モバイル決済に関する起業など、経済的な波及効果が大きい。
これは、店舗、審査など信用創造に関わる専門家、決済システムなど銀行のビジネスモデルが、ネットワークに取り込まれたことと言い換えられる。それによって、市場の開拓、需要の獲得などが可能になる。世界全体で潜在成長率が高まりづらい状況であっても、従来にはない新しいモノやサービスを提供することができれば、成長は実現できるということである。
投資によるデジタル化の取り込み
それをソフトバンクは重視している。デジタル化という変化に対応するためには、新しいテクノロジーを自力で生み出すか、あるいは、外部にある要素を獲得することが必要だ。ソフトバンクの場合、人工知能、演算処理能力の高い半導体の設計技術、ロボットなど広範な分野での競争力向上を目指している。しかし今すぐ、そのすべてを自前で調達することは難しい。
新しいテクノロジーを取り込むために同社が重視したのが出資、買収などの投資だ。特に、中国のアリババへの出資は同社に大きく貢献してきた。16年6月、ソフトバンクはアリババへの出資比率を32%から28%程度に引き下げ、2,000億円超の売却益を得た。また、アリババ株を担保に借り入れも行っている。成長企業への投資は、ソフトバンクの成長に欠かせない。
その考えを実現するために組成されたのが、10兆円規模のファンド(ソフトバンク・ビジョン・ファンド)だ。2018年3月期の決算を見ても、ファンド投資の影響は非常に大きい。当期、ソフトバンクグループの営業利益は1.3兆円(前期比27%増)だった。それには、ビジョン・ファンドが保有する米エヌビディア(画像処理を行う半導体企業)の株価上昇が寄与した。
問題となるのが、これまでの投資の多くが、孫会長の眼力によって実行されてきたことだ。デジタル関連企業の成長を取り込むためには、スタートアップ段階にある企業の成長性、今後の社会の変化の方向性などを見極めなければならない。それはかなり難しい。同時に、孫会長に比肩する先見性、眼力を持つ人材の確保が、ソフトバンクの成長には欠かせない。