そのために、投資の専門家を含む3名の副社長人事が発表された。この人事は、後継者選定のためのものであると考えられる。具体的には、ビジョン・ファンドの投資戦略の成否、グループ全体のテクノロジー関連投資の戦略の実行、買収企業の再建及び新しい提携・出資企業の発掘に分けて、3氏の実力が評価されていくだろう。さらに多くの後継者候補が浮上することも考えられる。
終わらない後継者選び
ソフトバンクの目指す成長のタイムスパンは長い。一方、ときどきの市場環境をもとに、市場参加者は同社のリスクを評価する。足許、同社の有利子負債の額は16兆円を超えた。今後も、同社は投資を軸にしてテクノロジーの取り込みを加速しようとするだろう。資金調達のために借り入れを行う必要性は高まり、財務リスクも上昇しやすい。
そうしたリスクを考えた際、今回の副社長人事が市場参加者の安心感を高められるとは考えづらい。専門性の点では、やや投資偏重だ。孫会長のビジョンの大きさ、大胆さに比べ、各人の専門分野、実務経験は違うように感じる。
また、どこかのタイミングでソフトバンクが、投資以外の要素を成長戦略に付加しなければならなくなる可能性もある。今後の変化を見極め、競争に先行するには、投資対象として企業を評価するための知見だけでなく、テクノロジーに関する実務経験の有無も重要だ。それは、自社内でのテクノロジーの開発を進めるためにも欠かせない。投資先企業間のテクノロジーを融合し、イノベーションのシナジーを引き出すためにも、テクノロジーの専門家が経営に参画する意義は増すはずだ。
市場環境が良好であれば、投資ビジネスからの収益は増えるだろう。しかし、それを長期的に続けていくことは至難の業だ。現時点で、ソフトバンクは投資による成長を重視している。しかし、どこかで新しい発想を加えなければならなくなるときもあるだろう。将来の選択肢を確保するためにも、デジタル化を支えるテクノロジーの専門家の存在は大切だ。
孫会長が欲するのは、自らの専門的な知見と、今後の社会全体を変えてやろうとする野心を併せ持った、アニマルスピリット溢れる人材だろう。そのエネルギーを投資だけでなく、自社内部での新製品の開発につなげることができればよい。
常に企業は旧来の発想と新しい要素の結合を目指すことによって、革新を目指す必要がある。それがゴーイング・コンサーンの本質だ。ソフトバンクがどのようにして孫会長のスピリットを次世代につなぎ、ビジネスの永続性を高めることができるかは、多くの企業の参考になるだろう。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)