日本マクドナルドが今年3月から始めた「夜マック」が好評だ。ボリュームがあるのに価格が安いことから、コストパフォーマンスの高い夜食として人気を集めている。
しかし、夜遅い時間帯にハンバーガーのような高カロリーの食事を摂ると、生活習慣病などのリスクが高まる恐れもあるようだ。事実、専門家は「夜マックの健康リスク」に警鐘を鳴らす。夜マックには、どんな危険性が潜んでいるのか。
夜マックは肥満の温床に?
夜マックとは、17時から閉店までの時間に限り、ビッグマック、ダブルチーズバーガー、グランてりやき、チキンフィレオなどの定番メニューに100円プラスするだけでパティの量が“倍”になる新サービスのこと。ビッグマックなら、通常2枚のパティがプラス100円で4枚になるわけだ。
このお得感が消費者に受け、2017年6月に東海エリアで試験的に始まった夜マックは、今年3月19日から全国の店舗でスタート。その効果もあってか、V字回復を続けているマクドナルドの18年1~3月期の営業利益は前年同期比39%増の伸びを見せ、既存店売上高も9.6%アップした。
しかし、夜遅い時間にそんなボリューミーなハンバーガーを食べれば、当然ながらさまざまな健康被害の可能性も懸念される。夜マックの悪影響について、管理栄養士のAさんは「まず考えられるのは肥満です」と指摘する。
「夜遅い時間、特に深夜の高カロリー高脂質の食事は、肥満につながります。摂取したカロリーをエネルギーとして消費することを『代謝』といいますが、この代謝がもっとも活発に行われる時間帯は朝。その後、昼、夜と時間がたつにつれ、人の代謝は落ちていきます。その際、うまく消費されなかったカロリーは脂肪として蓄えられることになるのです」(Aさん)
代謝が落ちたときに摂取したカロリーは、体内で消費しきれずに脂肪として蓄積され、それが肥満につながっていく。ファストフードに限らず「夜に食べすぎると太る」といわれるのは、そのためだ。
「また、ハンバーガーのパティのような肉類や揚げものは、胃や腸のなかで消化に時間がかかります。前夜に食べたものが消化できずに胃に残っていると“胃もたれ”を起こし、翌日の体調やメンタルに影響する可能性もあります」(同)
さらに、夜マックは「睡眠の質」に悪影響を及ぼす可能性もあるという。
「就寝前3時間以内にたくさん食べると、胃や腸が睡眠中も消化活動を続けなければならなくなり、興奮状態が続く。その結果、眠りが浅くなったり寝つきが悪くなったりすることがあるのです。睡眠の質の低下は疲労回復や新陳代謝を妨げ、肌荒れや疲労の蓄積など体調の悪化を招きかねません」(同)
「倍ビッグマック」でカロリー&脂質が激増
そう聞いても「ふーん」と人ごとのようにしか思わない人のために、夜マックの脂質の多さを具体的に検証してみよう。
以下は、夜マックの倍ビッグマックと通常のビッグマックのエネルギー(カロリー)と脂質を比較したものだ。ビッグマックは人気商品のひとつで、全メニューのなかでもっともカロリーと脂質が高い。(すべて18年5月17日時点の栄養情報)。
■レギュラーメニューの「ビッグマック」(225g/個)=パティ2枚
エネルギー:530kcal
脂質:28.2g
■夜マックの「倍ビッグマック」(300g/個)=パティ4枚
エネルギー:736kcal
脂質:43.7g
見ての通り、倍ビッグマックは通常のビッグマックより206kcal多く、脂質も15.5g増えている。
「この脂質の量を、脂質が多い青魚のサバを副食(おかず)にした『サバの味噌煮定食』を例に説明しましょう。サバとご飯、味噌汁、小鉢のすべてを含めたエネルギー量は約531kcalで、脂質は14.3g。つまり、『倍ビッグマック』を食べるということは、和定食1食分の脂質を余分に摂ることになるわけです」(同)
そもそも、倍ビッグマックの脂質は、それ1個でサバの味噌煮定食3つ分に相当する量だ。しかも、倍のパティで余分な脂質を摂っているのに、野菜類の量はまったく増えていない。
「パティが倍になってエネルギーや脂質はぐんと上がっている一方、代謝を助けるビタミンやミネラルなどの『微量栄養素』はかなり不足しています。エネルギーを効率よく代謝させるには、ビタミンやミネラルが欠かせません。本来なら、高カロリー高脂質な食事をするときは、同時にそれ相応の微量栄養素を摂らなければならないのに、夜マックにはそれが見当たりません」(同)
ただでさえ、夜食は体に悪影響を及ぼす可能性がある。その上、栄養のバランスが偏っていれば体内に脂肪が蓄積されることにつながる。もはや、夜マックは「肥満への入り口」といっても過言ではないのかもしれない。
ハンバーガーの「やわらかさ」に潜む問題
そもそも、ハンバーガーなどファストフードの危険性は、夜マックの登場以前からずっと指摘されていた。
アメリカのマクドナルドの従業員向けサイト「マックリソース・ライン」では、13年当時、ハンバーガーやフライドポテトの画像に「Unhealthy choice(不健康な選択)」と書かれてあり、その下に「ハンバーガーやポテトを避けるように」というアドバイスが加えられていたという。この一件は多くのメディアで取り上げられ、「マクドナルドは従業員にすすめられない食事を客に提供しているのか」と批判を浴びた。
Aさんは「栄養学の観点から見ると、ファストフードには『栄養バランスの偏り』と『咀嚼回数の少なさ』という問題があります」と指摘する。
前述したように、ハンバーガー1個には十分すぎるほどの脂質やカロリーが含まれているにもかかわらず、ビタミンやミネラル、食物繊維など体の代謝や消化吸収に必要な栄養素は欠けている。そのため、毎日のように食べていれば健康リスクは高まってしまう。
加えて、ハンバーガーのパティやバンズはとてもやわらかいため、「あまり咀嚼せずに食べる人が多いのも問題」(同)だという。
「一般的に、咀嚼回数が多いほど満腹中枢が刺激され、満腹感を得やすくなります。一方、咀嚼回数が少ないと満足感が得られないので、ファストフード店では、カロリーが高いフライドポテトや糖分が多い炭酸飲料などのサイドメニューをついつい頼んでしまう。そうなると、さらにカロリーや脂質がプラスされることになってしまいます」(同)
「夜マック」を食べる際のリスク軽減策
それでも、「どうしても夜マックを食べたい」という人もいるだろう。そんな人のために、Aさんは「食べる頻度やメニュー選びに注意してほしい」とアドバイスする。
「たまにはボリュームのあるハンバーガーを食べたくなることもあるでしょうから、『絶対に夜マックを食べてはダメ』とは言いません。その代わり、『ひと月に1~2回』『就寝前3時間以内には食べない』など、ルールや制限を設けてください。そうすれば、肥満のリスクを軽減できます」(同)
さらに、もうひとつ気をつけなければならないのはサイドメニューだ。
「脂質の摂りすぎを防ぐためにも、サイドメニューは定番のフライドポテトではなく、サラダやコーンがおすすめ。また、飲み物は砂糖を多く含む炭酸飲料ではなく、お茶やコーヒーにするなどの工夫をしてください」(同)
栄養バランスに関しても、夕食で夜マックを食べる日は朝昼の2食を野菜中心にして不足するビタミンやミネラルを積極的に摂っておけば、栄養の偏りをある程度解消できるという。
ただし、あくまでもこれは健康リスクを軽減するための対策だ。もしあなたが健康に気をつかっているなら、リスクの高い夜マックは最初から避けたほうが無難かもしれない。
(文=谷口京子/清談社)