『ブルー・オーシャン・シフト』は読むだけ無駄? 一作目の「成功企業」は惨憺たる有様
言ってみれば、著者はブルー・オーシャン戦略を走らせる具体的な手順について大きく説明を刷新した。にもかかわらず、新著ではその変更についての説明や、方法論が変遷した理由、少なくとも表現や説明が変遷した理由や経過を明らかにしていない。これはまともな学術書としては大きく誠意に欠けるものだと考える。
著者が一作目で主張したことの一つに、「ブルー・オーシャン戦略の時効」ともいうべきものがあった。
「ブルー・オーシャン戦略は多くの場合、10年から15年ものあいだ大きな挑戦を受けずに持ちこたえる」(243ページ)
そして、そんな企業事例として一作目では約30社の企業事例を掲げていた。
新著の不誠実な点は、一作目で著者が掲げたそれらの企業の「その後」についてレビューしていないことだ。唯一、シルク・ド・ソレイユを現在に至る成功例として触れているが、同社は2013年に至り社員400名、全体の1割をレイオフしている。一作目から8年目に大ピンチに陥った。一作目で紹介された代表的な企業事例のその後の凋落について私は『本当に使える経営戦略・使えない経営戦略』(パル出版/2013年刊/以下、拙著)で概観した。
新著では、一作目でのそのような企業事例の「その後」について綺麗に口をぬぐって触れていない。
少ない企業事例
数年前、私は自分が教えるクラスで参加者の社長さんたちに、一作目の企業事例の「その後」を手分けして検証してもらった。一作目で紹介された「ブルー・オーシャン成功例」とされた約30社の「10年後」はそれこそ惨憺たる有様だった。
唯一、「うまくいっているのではないですか」と報告されたのが、格安理髪店の先駆けとなったQBハウスだった。同社は日本のみならず、海外にも進出して好調な成長を続けていた。「例外もあるんだ」と私は思ったのだが、QBハウスが著者の定義によるブルー・オーシャン企業事例だとすると、やはり違っていたのである。
ブルー・オーシャンについて著者はいくつかの定義を提言していた。「差別化と低コストを同時に実現する」、あるいは「10数年間競合が出現しない青海原を進むことができる」などである。
QBハウスは確かにその後も成功していたが、その後を追って格安理髪店は続出した。業界の相場を1500円くらいに下げてしまったという感がある。つまり、競合は追いかけてきたが、QBハウスは独自のサービスやビジネス・モデルなどで成長を続けたということだ。ブルー・オーシャン的に「荒野を独り行く」という状態では、とてもなかった。