100円ショップのダイソーを展開する大創産業は、2018年3月期の売上高が4548億円だったと発表した。前の期の4200億円から大きく伸びた。18年3月時点の店舗数は国内が3278店、海外(26の国と地域)が1992店となった。店舗数も大きく増えている。快進撃が止まらない。
大創産業の前身である矢野商店が創業したのは1972年。創業者の矢野博丈氏が、家庭用品や雑貨の移動販売を始めた。77年に大創産業として法人化し、87年に「100円SHOPダイソー」の展開に着手。91年に直営店1号店をオープンし、そしてチェーン展開を本格化させた。店舗数は順調に増え、売上高は右肩上がりで伸びていった。そして今も伸びは鈍化していない。
業界最大手の大創産業は独走している。17年度の売上高は、業界2位・セリア(1591億円/18年3月期)の3倍近くにもなる。さらに、3位のキャンドゥ(688億円/17年11月期)と比べると6倍以上だ。大創産業は業界の盟主として君臨しているといえるだろう。
100円ショップは、小売業のなかでも特に「規模の経済(事業規模が大きくなるほど単位当たりのコストが小さくなり収益性が高まること)」が働く業態といえるだろう。
100円ショップでは、原価がかかる商品でも100円で販売しなければならないため、メーカーからできるだけ安値で仕入れようと交渉する。大手の100円ショップは交渉力が強いため、メーカーは安値で製品を提供せざるを得ず薄利になりがちだが、何千という店舗で大量販売できれば薄利多売で収益を上げることができるので、メーカーは喜んで100円ショップのために製品を製造する。こうしたことから、100円ショップ企業は店舗数を増やせば増やすほど安値で仕入れることができ、利益率も高まる収益構造となっている。
実際に、大手100円ショップ企業の利益率は低くはない。大創産業は非上場企業のため利益についての情報を公開していないので不明だが、セリアとキャンドゥは公表しているので、おおよその推測はつく。
売上高に占める営業利益(本業の儲け)の割合を示す「売上高営業利益率」を確認してみると、17年度はセリアが10%、キャンドゥが3%だった。日用品小売企業のなかでは、セリアの10%は群を抜いて高く、キャンドゥの3%は悪くはない数値だ。しかも両社は例年、同程度の数値を記録している。
大創産業の営業利益率は不明だが、おそらく悪くはないと思われる。大創産業の店舗数は国内外で5270店(18年3月)にもなり、セリアの1506店(18年3月)、キャンドゥの989店(18年2月)と比べて圧倒的に多く、両社よりも規模の経済を発揮しやすいからだ。
もちろん、利益率が高くない可能性もある。ダイソーは50円のコストの商品を100円で売って利益を上げるのではなく、100円に近いコストの商品を100円で売ることで品質の良さをアピールしてきた経緯があるためだ。こうした経営を現在も続けている可能性は否定できない。
いずれも憶測の域を出ない話になってしまうが、そうしたなかで大創産業が上場準備に入ったと報じられている。仮に上場となった場合、後日公表される決算書にて、どれだけの利益を稼いでいるのかがわかるようになる。大創産業の利益率に関心が集まるのは間違いない。
100均が拡大し続けられるワケ
規模の経済は、仕入れ面以外でも効果が現れる。大量輸送が可能になることがそのひとつだ。それによりコストを抑えることができ、またメーカーと直接取引することで卸売業者に支払うコストも削減することができる。
100円ショップの利益率が良いのは、規模の経済が働きやすいという以外にも理由を求めることができる。
時間あたりの給与が低いパート・アルバイトの比率が高いことがそのひとつだ。100円ショップでは、お客から商品説明を求められることが少ないため、商品知識が乏しくなりがちなパート・アルバイトが多くても問題になることはほとんどない。たとえば、家電量販店だったらそうはいかない。商品説明を求められることが多く、パート・アルバイトだらけでは対応がままならない。
また、100円ショップは値引きする必要がないことも利益率が高まる要因だ。値札を貼り替えるといった売価を変更するための作業が発生しないので、そのためのコストがかからない。また、セールを行うことがないので、そのためのチラシも必要なく、その分のコストも省くことができる。
宣伝広告費があまりかからないことも大きい。セールが必要ないほか、100円ショップは人気があるため、100円ショップ特集を組む雑誌などのメディアも頻繁に見かける。それらが勝手に宣伝してくれるので、コストをかける必要性が低いのだ。
コスト面を見てきたが、利益を確保できるのは、販売面での創意工夫も大きく影響している。
100円ショップでは、他の小売店で販売している人気商品を、100円で売れるようにつくり変えて販売することがある。すでに人気がある商品を、より安く販売すれば当然売れる。たとえコストがかかる商品であっても、容量を少なくするなどでコストを抑えれば利益が出る。
賞味期限が間近の加工食品を仕入れて、包装を変えて販売する場合もある。メーカーとしてはありがたい話なので、喜んで提供することだろう。売り切るだけの販売力がある100円ショップだからこそできる芸当だ。
販売面では客を飽きさせないことが重要となる。ダイソーでは約7万アイテムをも取りそろえ、客に選ぶ楽しみを提供している。そして毎月800アイテムほどを開発・投入することで、売り場の鮮度を高く保つようにしている。セリアは約2万アイテムを扱い、毎月500〜700アイテムを入れ替えている。どちらも、定期的に利用する人でも買い物を楽しむことができるようになっているのだ。
競争面では、アマゾンなどインターネット通販に代替されにくいことが100円ショップならではの強みといえるだろう。ネット通販で100円の商品を購入するとなると、配送料などがかかってしまい、店舗で買うよりも高くついてしまう可能性が高く、ネット通販に客を奪われるケースは少ない。
100円ショップは、他業態にはないたくさんの強みがある。デフレから脱却できていない日本では、依然として重要な業態といえるだろう。もしかしたら100円ショップが充実していることが一因で日本はデフレから脱却できていないのかもしれない。
いずれにせよ、多くの人が100円ショップのない生活を想像することが難しくなっているのではないだろうか。そういった意味で、ダイソーなどがどこまで店舗数を拡大していくのか、今後も注目したい。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)