新たな枠組みで再出発
会計検査院が問題視したことを受けて、政府は官民ファンドのテコ入れを急ぐ。具体的には産業革新機構を持ち株会社にして、クールジャパン機構など複数のファンドを傘下に入れる方向だ。そのために必要な産業競争力強化法を5月に改正している。今秋、革新機構を引き継ぐかたちで産業革新投資機構を設立。現在の革新機構のように企業などへ直接投資はせず、傘下のファンドが投資し、新しい組織はファンドの損益を管理する。
産業革新投資機構の取締役会議長にはコマツの坂根正弘相談役、社長に元三菱UFJフィナンシャル・グループ副社長の田中正明氏が就く。すでに投資した案件は分けて管理し、志賀俊之会長ら現経営陣が引き続きかかわる。
6月15日に閣議決定した「統合イノベーション戦略」は、経産省の革新機構やクールジャパン機構、農水省のA-FIVE、文科省の官民イノベーションプログラムなど創業を後押ししてきたファンドの統合を想定している。2021年までに、どのファンドを統廃合するかを判断する。
損失を出したファンドの責任があいまいなまま整理される懸念がある。乱造された官民ファンドは各省の天下りの受け皿になっているだけでなく、各省の第2のサイフになっている、と皮肉な見方をする向きもあって、統合に向けての調整が難航する恐れもある。
三越伊勢丹HDはクールジャパン機構から株式取得
クールジャパン機構は安倍政権の成長戦略の目玉だった。外国人が“クール”ととらえる日本の魅力を情報発信して、海外で商品を販売したりサービスを展開。観光によるインバウンドの増加を図る狙いで13年11月に設立された。17年4月時点の出資金は693億円。政府出資が586億円、民間出資が107億円だ。会計検査院は17件、310億円を投融資して44億円の損失が生じていると指摘した。「非効率な運営」「事実上成果ゼロ」との批判の声が上がる。
こうしたなかで、クールジャパン機構側に動きがあった。三越伊勢丹ホールディングス(HD)が6月末、クールジャパン機構と共同出資したマレーシアの店舗運営会社を完全子会社にした。三越伊勢丹HDのマレーシア子会社が51%、クールジャパン機構が49%出資して設立したアイシージェイ・デパートメント・ストアの全株式を三越伊勢丹HDが取得した。
アイシージェイはクールジャパン機構の投資案件の柱だった。16年10月末、クアラルンプール中心部に地下1階から4階までを日本商品だけを展示するデパートとしてオープンした。歓迎されたのは当初だけ。「各自治体のアンテナショップの拡大版にすぎない」と酷評され、閑古鳥が鳴いた。17年度の売上高は16億円。初年度の売り上げ目標(35億円)を大きく下回り、5億円の営業赤字を出した。
クールジャパン機構はアイシージェイに10億円投資した。海外に進出を希望する中小企業を支援するのではなく、三越伊勢丹HDの投資案件に相乗りすることに疑問を呈する声もある。実はアイシージェイは、三越伊勢丹HDがクアランプールで4店運営する店舗のひとつを改装したものだった。アイシージェイは粗製乱造した官民ファンドによる、投資理由がはっきりしない「税金の無駄使いの典型例」という批判も上がっている。
(文=編集部)