ダイエット・筋トレ機器EMS、米国で皮膚障害の注意喚起、効果示すデータなしと指摘
有名プロスポーツ選手がコマーシャルに登場するなど、EMSと呼ばれるダイエット・筋トレ機器が再ブームとなっています。
EMSは「電気筋肉刺激」を意味する英語の頭文字で、もともとは麻痺した手足などを治療する方法として100年ほど前から知られていたものですが、20年くらい前からは家庭用のダイエット機器として市販されるようになりました。
多くの商品は、乾電池で動作する電流発生装置と、皮膚に貼り付けるパッド(電極)、パッドに塗るジェル、それに装置やパッドを固定するベルトなどからなっています。太ももやお腹など、鍛えたい部位の皮膚にパッドを貼り、スイッチを入れると1秒間に5~20回くらいの頻度で断続的に電流が流れ、筋肉を収縮させるという仕組みです。
うたい文句は、「寝ながら痩せられる」「仕事しながら腹筋運動」などです。
英国の新聞「ガーディアン」は、医学論文を引用しつつ、腕、太もも、腰回りなどに多数のパッドを貼って使用していた10名を超える人たちが、横紋筋融解症という重い障害を負ったと報じました【注1】。脂肪を落とし、筋トレ効果を高めるとして宣伝されているが科学的根拠は乏しい、とも書いています。
実際のところはどうなのでしょうか? 人間を対象にして効果や健康被害を調べた研究は多くないのですが、前述の報道を裏付ける基礎研究のひとつを紹介しましょう【注2】。カナダとデンマークの研究者チームが行った実験で、健康な若い男性を対象に、まず片足を合計210回、何回かに分けて屈伸してもらいました。太ももの筋肉(大腿四頭筋)を鍛えるためのトレーニング・マシンを使ったそうです。そのあと、反対の足に電気筋肉刺激を同じ回数だけ行ったという実験です。
筋肉の一部を両足から採取して電子顕微鏡で観察したところ、電気筋肉刺激を行ったほうの足で、筋肉細胞の破壊が激しかったと結論しています。ただしこの実験は、市販のEMS機器を使ったわけではなく、医師が筋肉に針型電極を刺して刺激するという方法が取られていましたので、そのまま市販品について同じ結果になるかどうかはわかりません。
米国で注意喚起
米国食品医薬品局(FDA)は、昔からEMSがもたらす健康被害に重大な関心を寄せていて、米国民に向け注意を喚起するメッセージをQ&Aのかたちで公表しています。その最新版には、以下のような記述があります【注3】。
・正式な認可を受けた機器以外は、生命にかかわる危険がある
・未認可の機器を使い、火傷、あざ、皮膚の痛みなどが生じたとの訴えが多い
・たとえ認可された機器であっても、痩せたり、お腹の筋肉がむきむきになったりすることを示すデータは存在しない
同じく、米国連邦取引委員会も下記のような手厳しい警告文を国民に向けて公表しています【注4】。
・汗をかかずに痩せる方法はない
・お腹やお尻の脂肪を取るには、ダイエットと運動しかない
・説明文をよく読むと、「カロリー制限も一緒に行うこと」と必ず書いてある
・使用前、使用後の写真に騙されないこと
・カタログに書いてあるカスタマーサービスに電話をしてみること。もし親身な対応をしてもらえなければ、購入はやめたほうがいい
すべて納得です。なお日本では、国民生活センターが早くも平成14年に『電気刺激による筋肉増強をうたった商品の安全性―EMSベルトの筋肉や皮膚への影響を調べる―』と題した、優れたレポートを公表し、皮膚障害の危険性などについて注意喚起を行っています。海外のいかなるレポートよりも詳細、かつ科学的な内容で、一読の価値があります。
(文=岡田正彦/新潟大学名誉教授)
参考文献
【1】 Siddique H, ‘Damaging’ electrical fitness workouts should be regulated, say doctors. Guardian 30 May, 2016.
【2】 Black CD, et al., Muscle injury after repeated bouts of voluntary and electrically stimulated exercise. Med Sci Sports Exerc 40: 1605-1615, 2008.
【3】 FDA, Electronic muscle stimulators. Consumer Products Dec 17, 2017.
【4】 FTC Charges three top-selling electronic abdominal exercise belts with making false claims. FTC May 8, 2002.