ビッグデータをAIで分析することの利点のひとつは、客観性の確保だ。ジェイスコアがAIの精度向上への取り組みを進め、具体的なスコアリングの手法とデフォルト(債務不履行)率の変化などを公開することは、同社のビジネスへの信頼感を得ていくことにつながるだろう。
その上で、ストレステストなどのシナリオ分析を行うことで、ある程度の環境変化にも耐えられる信用創造の仕組みを目指されればなおよい。そうした観点からAIを用いた信用力評価に、金融機関の信用リスク管理などのノウハウを組み合わせていくことが重要と考える。
ジェイスコアに期待したいクラウドファンディング分野への取り組み
すでに、金融機関が提供してきた金融仲介の機能は、ネットワークシステムに置き換えられつつある。米国では、個人のスコア・レンディングを行うIT新興企業が、融資のための資金を第3者から調達している。私たちは、ITネットワーク上のスコアリングプラットフォームなどには金融仲介の機能が備わっているとの認識を持つべきだろう。
この分野でジェイスコアにできることは多いと考えられる。特に注目していきたいのが、ネットワーク空間において新興企業や小規模プロジェクトが不特定多数の個人(クラウド=大衆)から資金の提供を募るクラウドファンディングに関する取り組みだ。
クラウドファンディングの対象案件には、金融機関の融資対象になりづらいものが多いとみられる。その理由は、事業規模が小さいうえに、創業して間もないため審査に必要なデータの確保が難しいという問題があるからだろう。そうした状況のなか、個人がクラウドファンディングによって資金を調達しようとする企業やプロジェクトに融資や出資を行うことはハイリスクといえる。
ジェイスコアが個人の信用力を評価するよりよいテクノロジーを開発することは、同社がクラウドファンディング関連のビジネスを強化することにつながるだろう。具体的には、ジェイスコアのAIが個人事業主の事業計画を評価し、投資家向けのレポートを作成・提供することなどが考えられる。それは、リスクのある投資対象に関する個人投資家の理解を助けるだろう。起業など新しい取り組みを支えるために意義あることでもある。同社が評価の内容を基にして投資家に信用保証を提供することも考えられる。
ジェイスコアが信頼性のある信用力評価を行うためには、海外で個人向けスコアリング事業などを進めることも必要となるだろう。そうした新しい取り組みを同社が自力で進めることは容易ではない。ジェイスコアが親会社や国内外の金融機関等と連携し、収益性の高い金融のビジネスモデルを構築することを期待したい。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)