ビジネスジャーナル > 企業ニュース > 仕事使いできる「大人ランドセル」  > 3ページ目
NEW
「革カバン」の魅力を伝える取り組み

仕事使いできる「大人ランドセル」が大ヒットの理由

文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

町ぐるみで取り組む、兵庫県の「豊岡鞄」

 ここからは「カバン製作者の育成」について、2つの事例を紹介したい。若い世代ではモノづくりに関心を持つ人が多く、会社員や主婦でも手がけてみたい人が増えているからだ。

 兵庫県豊岡市は、古くからの「カバンの町」だ。奈良時代の柳細工を起源とし、江戸時代の柳行李につながり、現在に至るという。今でも生産本数は日本一で、一定の品質基準を満たすカバンを「豊岡鞄」として認定、地域団体商標にもなっている。市内には約180社の鞄関連企業がある。

 そんな町に、14年に誕生したのが「Toyooka Kaban Artisan School(トヨオカ カバン アルチザン スクール)」というカバン職人の育成学校だ。運営するのは第三セクター・豊岡まちづくり会社で、豊岡鞄協会の支援を受けている。

 学校の専門課程は1年コースで、授業内容にはミシン特訓講座、図面や仕様書や原価計算もあれば、生地や皮革工場視察、市場調査の課外授業もある。年間授業料は126万円かかるが、すでに4期の卒業生を出し、市内のカバンメーカーなどに就職した。豊岡市工業会も、スポットで学べる「カバン製作教室」をつくり、こちらは無料で受講できる。

 9月13日には東京駅前の商業施設「KITTE(キッテ)」の1階に、東京初の旗艦店もオープン。革カバンも含めた、豊岡鞄の情報発信にも力を入れている。

「手縫いの革製品」の発表会

仕事使いできる「大人ランドセル」が大ヒットの理由の画像5
仕事使いできる「大人ランドセル」が大ヒットの理由の画像6発表された作品。一部は販売もされた。(筆者撮影)

 時期が前後するが、5月下旬に東京の下町で「革手縫い教室展」というイベントが開催された。『手縫いで作る革のカバン』(NHK出版)などの著書を持つ、野谷久仁子氏が主宰する教室の生徒たちの作品発表会だ。

 通常の作品展よりもレベルは高い。指導する野谷氏が、バッグデザイナーとして長年の実績があり著書も多いこと、そして吉田カバン創業者(故吉田吉蔵氏)の次女で、創業者から直接、手縫い技術を学んだという人でもあるためだ。

 とはいえ、教室は“修業道場”という雰囲気ではない。やわらかな雰囲気のなか、真剣にカバン製作に取り組む。生徒の年齢も職業もさまざまだという。

 もともと帽子デザイナーだった野谷氏が、手縫いの革カバンに興味を持ち、手縫い名人だった父の吉蔵氏に「教えてほしい」と頼み込んだ当時、父の答えはこうだった。

「教えるから、学んだら手縫いの技術を広めてほしい」

 目の届く範囲で教え続けることで「父との約束」を果たしている。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

高井 尚之(たかい・なおゆき/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)
1962年生まれ。(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。

仕事使いできる「大人ランドセル」が大ヒットの理由のページです。ビジネスジャーナルは、企業、, , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!